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カテゴリー「Dylan」の64件の記事

2014.09.11

ボブ・ディランのブートレッグ・シリーズ第11集はベースメント・テープス集

●リリースされるのは、Complete というタイトルの6CD138曲収録の完全盤と、Raw というタイトルの2CD38曲収録の抜粋盤の2種類。

The Basement Tapes Complete: The Bootleg Series Vol. 11
The Basement Tapes Complete: The Bootleg Series Vol. 11

 ディラン・ファンには有名な、バイク事故後の隠遁期のザ・バンドとのセッション音源。75年に The Basement Tapes という2枚組で公式にリリースされたものですが、それに先立って、ロック史上初のブートレッグ、Great White Wonder で世に出た音源です。

●公式ソースでは、

・ガース・ハドソンが、資料研究をしてるジャン・ハーストという人との共同作業でテープを修復
・新たに発見された、Red Room と呼ばれるディランの自宅の部屋で録音された音源を収録
・Garth Hudson's numbering system によって実際の録音順に収録

ということが発表されてます。

 また、1975年に公式盤 The Basement Tapes として発表されたときの加工された音ではなく、「1967年の夏」に実際に演奏、録音された時の音に近づけているとされていますが、先行で公開された Odds and Ends の音はブートレッグで聴ける、ヴォーカルが片チャンネルに寄った左右チャンネルに分離した音ではなく、ヴォーカルがセンターに定位した調整された音になってます。

●リヴォンの自伝によれば、彼がウッドストックで他のメンバーに合流したのは1967年の終わり頃(それ以前の録音にリヴォンは不参加。ドラムを叩いているのはリチャード・マニュエルですが、ドラムレスの録音も少なくないです)。その後も録音はもちろん続いたので、ベースメント・テープスの音源は今回のリリース情報にある「1967年の夏」だけではなく、67年から68年にかけてまたがってるはずです。

 データ等の詳細はブックレットで明らかになるはずなので楽しみです。収録順を決める基準になった Garth Hudson's numbering system というものがどんなものなのかは不明ですが、リヴォンの伝記には「あのとき何曲が録音されたのか、正確な数字を知っているのはガースだけだ」と書かれているので、ガースは後から辿れるようなデータ記録を残していたのかもしれません。

●90年代に入ってから大量に非公式に流出し始めて、100曲以上の曲が聴けるようになっているベースメント・テープス音源ですが、マスターを持っていたというガースは以前、自分は音源の流出には関与していないと語ってました。マスターのコピーを持っていたと思われるボブのマネージャーだったアルバート・グロスマンがなくなったのが1986年なので、音源はグロスマンの死去後のグロスマンの周辺から漏れたと考えるのが自然なんでしょう(ただの推測です)。

 ちなみに。75年リリースの公式盤と今回の収録曲を突き合わせると、75年盤の収録曲は今回のディスクの3、4枚目に集中しています。2トラックのレコーダーで録音された音質はピンキリ。先行公開の Odds and Ends はもちろん「ピン」の方です。

●11月4日発売。国内盤は11月19日予定。

2013.12.18

ボブ・ディラン、2014年春に日本ツアーか

●ディランのファンジン ISIS web版の12月17日付Breaking News欄によると、ディランの関係者がウドー音楽事務所と2014年春の日本公演の交渉中ということです。同紙によると、うまく行けばクリスマス前に発表できるくらいに話は進んでいるということです。

 会場はすべてZeppで、福岡、大阪、名古屋、東京、札幌、とISISは伝えてます。前回2010年3月の日本公演もZeppでしたが、やはりああいう小会場だけが醸し出せる雰囲気にディランも魅せられてるということなのでしょうか。なお、11月に47年ぶりのロイヤル・アルバート・ホール3公演で秋のツアーを終えたディランですが、現時点で正式発表された2014年のツアー日程はありません。

●まだ正式発表というには遠いですが、実現しますように。2月、3月はいろいろと大物が来ますなあ。ボブはいつ頃になるんでしょう。財布が......



(追記)

●来日公演確定しました。現時点で判明してるのは以下の日程のようです。

3月31日 Zepp Divercity 東京
4月1日 Zepp Divercity 東京
4月3日 Zepp Divercity 東京
4月4日 Zepp Divercity 東京
4月5日 Zepp Divercity 東京(再追加公演)
4月7日 Zepp Divercity 東京
4月8日 Zepp Divercity 東京
4月9日 Zepp Divercity 東京(追加公演)
4月10日 Zepp Divercity 東京(追加公演)

4月13日 Sapporo 札幌
4月14日 Sapporo 札幌

4月17日 Zepp Nagoya 名古屋
4月18日 Zepp Nagoya 名古屋

4月19日 Zepp Fukuoka 福岡

4月21日 Zepp Namba 大阪
4月22日 Zepp Namba 大阪
4月22日 Zepp Namba 大阪

 料金は、スタンディング1万3000円、指定席2万2000円です。前回より少し上がっってますが、前回同様、小会場公演実現のためにディラン側はギャラを妥協してくれてるのだと思います。

●東京と名古屋の間には福岡、札幌の日程が入るものと思われます。ISISには4/13、14が札幌、4/19が福岡という情報が出てますが、それだと東京と札幌の間がかなり空くし、名古屋→福岡→大阪の移動がキツイように思うのですが。ロンドンですら3公演なのだから、東京の6公演というのは破格です。人が多いだけですけど(笑)。(追記2: 札幌、福岡の日程はISIS報と同じに公式発表されたので、そのまま上に追加しました)

2013.09.30

ザ・バンド、Live at the Academy Of Music 1971 を聴く

●1972年にリリースされたザ・バンドのライブ・アルバムの名盤 Rock Of Ages の再発版です。

Live at the Academy
Live at the Academy

 ただし。下で述べるように単なる増補版再発などではなく、内容的には新プロダクションです。自分の Rock Of Ages 歴は、アナログ、CD3種、ブート1種に、今回のボックスなので、6個目。長い旅なので、この分章も長くなりそう・・・

Reel●9月27日付のテレグラフ紙に載ったロビー・ロバートソンのインタビューによると、今回のプロダクションのきっかけはレコード会社からの持ちかけで、長年行方不明だった Rock Of Ages(以下、ROA)のマスターが見つかったので何かできないか、という誘いから始まったということです。今回のブックレットにマルチトラックのリールの写真が載ってますが(左写真)、見つかったマスターの写真と思われます。

 インタビューでは、旧ROAのミキシングについても語っていて、当時、マイアミでフィル・レッシュ(原文ママ。たぶんラモーンの間違え)とミキシング作業後、NYに戻り聴き直したものの2人とも満足できず。ラモーンは他の仕事があったため、ロビーがウッドストックの未完成状態のスタジオで作業。マイアミでのミックスよりは良かったものの満足はできなかったとういことです。

Rock_of_ages_2●最初にリリース情報の概略を読んだ時は、重複の多い内容でどれだけ楽しめるのかなと思ったのですが、具体的な内容が分かり、実際に聴いてみると、当初の感想は一変。私的には、内容も音質も旧 ROA (左写真) とは完全に別物という印象を受けました。もちろん未発表トラックを追加してリリースされた2001年の拡大版とも違います。単なる音質改良盤というには、得られるものが多すぎます。

●まず、Disc1と2のボブ・クリアマウンテンがミックスした音源から。

 こちらは複数日の音源の抜粋で、旧ROAと同じテイクを使ってますが、曲順はまったく変わってます。1曲目が歓声の前触れもなしに The W.S. Walcott. Medecine Show でいきなり始まるので、旧ROAの、ロビーのホーン紹介のイントロダクションに続いて、リック・ダンコの印象的なベースから始まる Don't Do It によるオープニングに慣れた人は、「こんなの Rock of Ages じゃない」と思うかもしれません。

●肝心のボブ・クリアマウンテンのミックスですが(以下、BCミックス)、自分は旧ROAとのあまりの違いに驚き、感激しました。

 旧ROAでは、ヴォーカル、ベース、ドラムが中央にモノラル状に定位してるので、音が団子状に固まって聴こえます。しかも、あの、中低音に寄ったモヤっとした音。そういうズシンと重いダウン・トゥ・アースなサウンドこそザ・バンドだ、と思う人もいるでしょう。ここでも、「こんなの Rock of Ages じゃない」言われるかも。

●今回のBCミックスを聴いて驚いたのは、各メンバーが何をしてるか、よく分かるなということ。特にヴォーカル。

 各人のヴォーカルを左右chに振り分けたり、音の定位をずらしているので、このバンドの3人の傑出したリード・ヴォーカルが対旋律でどんな歌を歌ってるか、どんなタイミングでバック・ヴォーカルを被せてくるかが、かなりはっきり分かるようになりました。音が鮮明なので微妙な声のニュアンスの違いも際立ちます。そこだけに集中して、解剖的に聴き続けてもかなり面白いと思います。

 例えば、I Shall Be Released (これは2001年の拡大版で初出でした)。マニュエルのヴォーカルが中央、左右にそれぞれダンコ、ヘルムのヴォーカルを振り分け。オルガン、ベースは中央、左にピアノ、右にギターと綺麗に分けられているので、すべての音が細やかに聴き取れます。

 こういう面白さは、ヴォーカルが多層的に重なり合う曲で際立ちます。This Wheel's On Fire はA・B・Cというシンプルな構成の曲ですが、曲が進むに連れて、B(マニュエル)・C(ヘルム)とヴォーカルが増えていく面白さとか(旧ROAではヴォーカルがすべて中央で団子状に聴こえ、B部分のマニュエルのヴォーカルはほとんど聞こえません。というか、旧版ではB部分のマニュエルのボーカルはカットされてませんか?)。あるいは、King Harvest 冒頭のマニュエル/ヘルムの二重ヴォーカルが対等に聴こえる面白さとか。Rockin' Chair のコーラス部でのヴォーカルの複雑な重なりはホント感動的で、ジーンと来ます。と、書いてたらきりがないです。

●楽器音ではロビーのギターが、目立つようなオブリガートやソロ以外の箇所でも、はっきり聴こえる箇所が増えました(The Weight 全編で良く聴こえるギターなんてすごく面白いです)。全体のサウンドに埋もれがちで聴きにくかったマニュエルのピアノもそう。

 楽器音で一番驚いたのが、ガースが Chest Fever の前で弾く The Genetic Method というタイトルの即興的なソロ。旧ROAのもやっとした感じが取れて、高音域の鮮やかなオルガンの音色は驚きです。ガースは複数の楽器(あるいは、二段の鍵盤)を弾いてますが、両手の音を(旧ROA以上にはっきりと)左右chに振り分けているので、両手の弾き分けの違いが際立ってとても面白いです。

 ちなみに、途中「蛍の光」を弾く The Genetic Method は当然大晦日31日の音源ですが、そこから切れ目なしになだれ込んで始まる Chest Fever は28日の音源なんですね。disc4では31日の音源がきけますが、演奏終了後にメンバーの Thank You, Happy New Year! という声が聞け新年ムード満点なんですが。演奏にキズがあるわけでもないのに、なぜ、わざわざ28日の音源を繋いだのでしょう。

 もう一つのメドレーぽい箇所は、The Night They Old Dixie Down / Across The Great Divide ですが、これも実は前者が29日、後者が30日の演奏でした。うーん、繋がりが自然にスムーズなのでとても別日の演奏とは思えません(それは旧ROAで聴いてもそうです)。

●ボブ・クリアマウンテンが仕事をしてきたミュージシャン達は自分の好みとずれているのですが、驚いたのが少し前に始まった一連のストーンズのライブ・アーカイブ配信。特に73年ブリュッセル公演の音源。いったいどうすれば、こんな鮮やかなサウンドに生まれ変わるのか仰天したものですが、今回のザ・バンド音源での仕事ぶりも同様の印象を持ちました。ザ・バンドの音楽にしては派手にし過ぎてしまうのではないの、という先入観は私的には完全に外れ。脱帽です。

 不満を言えば、曲間が短めに端折られていて、どんどん次の曲に進んでいくので各曲の印象に浸っている余裕がないこと。ディランが登場する Down In THe Flood ですら、前の曲から間を置かずあっさりすぐ始まります。Like A Rolling Stone の前にボブが「この曲やるの何年ぶりだっけ。6年ぶり?16年ぶり?」と語る面白いmcはちゃんと残ってます。ボブは途中、歌詞忘れかけてヨレヨレになりますけど。あんたがその曲で歌詞忘れてどうする(笑)。

●続いて、31日のNew Year's Eveショーの音源を無編集で演奏中に収録したdisc3と4。

 16テイクと大量の音源が初出で、ミックス担当はロビーの息子のセバスチャン・ロバートソンとジェアド・レヴァインという人(後者はロビーがドリームワークスの仕事をした時に一緒に仕事をした人の模様)。BCミックスとは微妙に違いますが、こちらもとても聴きやすいです。あまりいじくってない感じの音。ホーンは引っ込み気味。

 驚いたのが曲順。上に書いたように旧ROAでは、ロビー・ロバートソンのホーン隊紹介に続いて、Don't Do It のイントロが始まるので、ホーン隊はコンサートの最初からいるものと、大昔、最初にROAを聞いた時から今まで思いこんでました。

 ところが、この31日の演奏では、ホーンが登場するのはdisc4の1曲め Life Is A Carnival から。disc3にホーンが参加してるものは1曲もありません。ようするにホーンの4人はコンサートの途中から出演してたわけです。Stage Fright 演奏後の、ダンコの「ここでちょっと休憩とってまた戻ります」というmcからもショーが2部構成だったことが分かります。31日だけではなく4日間すべてそうだったのではないでしょうか。

 旧ROAでの冒頭のロビーのイントロダクションは We're gonna try something we've never done before. ですが、今回の31日音源で Life Is A Carnival の前で話してるのは We're gonna do something different this second half. とホーンが途中から入ることを裏付けてます。this second half という言葉のある31日のmcを使うとホーンが最初からいるように「偽装」できなくなるので、旧ROAでは、this second half という言葉を話していない別日のmcを使ったということなのでしょう。

 力尽きて来たのでもうあまり書けませんが、曲間も含め無編集ということなのでコンサートの進行具合も分かって面白いです。個人的には Unfaithful Servant のロビーのソロを別テイクで聴いてみたかったのですが、旧ROAのテイクも31日のテイクだったので、残念ながら同じものしか聴けません。

●DVDに収録された映像は King Harvest と The W.S. Walcott. Medecine Show 2曲だけですが、動く演奏シーンを見るのはやはり格別。The W.S. Walcott. Medecine Show のイントロ部でロビーがギターのネックを派手に上下させながらリフを弾くシーンとか、「オー!」って感じ。こればかりは音だけでは分かりません。

 これで、映像で見れるものは、2005年に出たアンソロジー・ボックスに収録の Don't Do It と合わせて3曲になりましたが、まだ未公開の映像もあるようで、こちらでそれをまとめてくれてる方がいます。

 Rag Mama Rag のチューバ・ソロでハワード・ジョンソンがステージ前方に出て立って演奏してるシーンとか、こういうのも当たり前ですが音だけでは分かりません。不完全な断片しかなくても十分なので、今回のDVDに入れて欲しかったです。

●ブックレットのロビーの回想は具体的でとても面白いもの。NYの空港に到着したアラン・トゥーサンが持参したホーン用の譜面の入ったカバンを誰かが間違って持って行ってしまった話とか(つまり書き直し)、着いたウッドストックは大雪で、アランの耳の具合が悪くなったりで順調には作業は進まなかったとのこと。コンサート2日前から行ったリハーサルの多くはホーンとの調整に費やされたそうで、ジョン・サイモンも手助け。コンサートの現場にはボビー・チャールズやDr.ジョンもいたそうです。

 他に3者のエッセイが載ってますが、マムフォード・アンド・サンズの部分はわりと儀礼的な内容であまり面白みはありません。その点、アラン・トゥーサンのエッセイは流石。トゥーサンは、リック・ダンコのベースをどの流派にも分類できない独自のスタイルを持ってると述べてます。ブックレットの写真を見ると、31日のショーで、ディランの弾くテレキャスターはロビーのを借りてるようで、その代わりロビーはSGを弾いてます。

●予想以上の出来。これは素晴らしい新プロダクションでした。ボックスは手に余るという人はBCミックスのみの2CDも出ます。レコード・コレクター誌の次号はこのボックスの特集ですが、楽しみに待ちます。


2013.09.03

ディランの1969年ワイト島フェスティバル音源完全版

●ブートレッグ・シリーズvol.10のデラックス・エディションのみに付いてるディスクです。予想以上に素晴らしかったです。音質はリミックスでかなり変わってます(後述)。全17曲、ほぼ60分。

 当時のディランはもちろんツアーとは無縁な生活を送っていたわけですが、クリントン・へイリンのday by day 本、A Life In Stolen Moments によれば、ディランは本番6日前の8月25日深夜にワイト島に到着。翌26日からリハーサルを開始し、コンサート前日の8月30日には4時間に及ぶ通しリハーサルをしたそうです。また同日には、Hector's Crab and Lobster Bar というダイニング・パブでザ・バンドとジャム・セッションを行ったとされています。

●8月31日のショー当日にディランが登場したのは夜11時頃。一部非公式な映像も残ってます。

 自分の見たことのある映像は、上の I Threw It All Away の他に、Highway 61 Revisited、One Too Many Morning、I Pity The Poor Immigrant、Minstrel Boy ですが(これら以外にもあるのかは知りません)、ディランはショーを通してずっと(2種の)アコースティック・ギターを弾いていて、Highway 61 のような曲でもエレキギターは弾いてません。これは意外でした。最初の方で弾いてるギターは、ナッシュヴィル・スカイラインの表カバーでディランが持ってるギターに似てますが、ちゃんと確認はしてません。

●ディランが観客の前で演奏したのは、フル・ショーなら66年5月27日、ロンドン、ロイヤル・アルバート・ホール以来。フル・ショー以外では、ワイト島フェスの一カ月半前の69年7月14日に、南イリノイ大学での The Mississippi River Festival に出演したザ・バンドのアンコールにサプライズ・ゲストとして登場して数曲歌って以来。ディラン名義の出演に限れば、68年1月20日カーネギーホールでのウディー・ガスリー・トリビュート・コンサートへの出演時以来でした。

●直前に集中的にリハーサルしたとはいえやはり、歌、演奏ともに所々荒く不安定なのは仕方ないです。

 1曲目の後に、Great to be here と数回繰り返しつぶやくディランですが、「ユダ!」と野次られまでした3年前のことは、もうどうでもよい過去のことと言うわけではなかったと思うのですが。Mighty Quinn の前で「こちらでマンフレッド・マンが大ヒットさせた曲です」と語ったり、リラックスして淡々と曲を消化していく印象。Mighty Quinn のロビーのギターソロの前に、Oh Guitar! と叫んだり、66年のUKツアーで見られた不機嫌さはみじんもありません。何よりブーイングする客なんていないし。客なんて勝手なもんです、ええ。

●個人的に一番気に入ったのが、4〜7曲目のディランのソロ・セット。すでに「セルフ・ポートレート」の録音は始まっていたわけですが、ソロ・セットは「セルフ・ポートレイト唱法」が濃厚で、伸びやかな歌が味わえます。歌っているのは、トラッドの Wild Mountain Thyme(RTR期のライブでよく歌ってます)と、定番の代表曲 It Ain't Me, Babe、To Ramona、Mr.Tambourine Man ですが、どうせならこのセットからの曲を「セルフ・ポートレイト」にいれた方が違和感なかったと思うんですけど。ディランさんは、どういう基準で選んだんでしょうかねえ。謎。

●「ナッシュヴィル・スカイライン」、「ジョン・ウェズリー・ハーディング」収録曲や、Lay Lady Lay がザ・バンドのバックで聴けるのも面白く、特にJWHからの2曲(I Dreamed I Saw St.Augustine と I Pity the Poor Immigrant)はどちらもゆったりとしたワルツで、2曲ともガースのアコーディオンが聴けるのもうれしいです。

●ヘビー・アレンジの演奏は、Maggie's Farm、Highway 61 Revisited、Like a Rolling Stone といった曲ですが、Highway 61 がカッコ良く、コーラスの最後で派手に歌ってるリヴォンのバックコーラスが重なる所なんか最高です。

●こうして公式盤の高音質でフルセットを聴いてみれば、セルフ・ポートレイト収録のたった4曲しか聴けなかった時に受けた、このショーの半端な印象が吹っ飛ぶほどの驚き。万全ではない録音状態や演奏の荒さはもちろんあるのですが、コンサートは、曲ごとに断片で聞いたって分からない、あくまで全体の印象でナンボなんだということを痛感します。それは、例えば、よれよれクラプトンのレインボウ・コンサートだってそう(あれは全体聴いてもよれよれですが。わはは)。

●音質は、リミックスによって楽器が左右に広がって前に出て、歓声も大きく入ってます。なにより楽器音がすごく生々しい。ただし、左にいるガースのオルガンが右から聞こえたり、その辺は適当です。まあ、クラシックと違いステージにいる位置から音が聞こえなきゃならないということもないので。

 演奏が所々荒れたように聞こえるのは、楽器間のバランスがあまり良くないこともあると思われます。この点、この音源のリストアを担当したスティーブ・バーコヴィッツがUNCUT誌9月号で、当時は連絡取るための携帯電話があるわけでなし、いつステージが始まるか、いつソロが始まるか、マイクセッティングはどうなってるか等、何も分からないまま、ステージから遠く離れた移動録音機材の中で格闘してたエンジニア(録音担当はグリン・ジョンズとエリオット・メイザーという名人です)の苦労も考えるべき、と語ってます。はい、その通り。

 まあ、変なブートの音に慣れてる人なら、全然問題ない完璧なサウンドボード録音なわけですから文句言ったらバチ当たります。そもそも、ブートレッグ・シリーズなんですから。

 ワイト島のディスクのレーベル面は、かのTMOQの豚ロゴが印刷されていて笑いました。レコード会社の中の人も遊んでますね。

Iow_label_2

 2枚組の通常盤に収録のワイト島音源2曲は、このリミックス音源が使われています。

●あまりにも素晴らしいので、これだけブートレッグ・シリーズvol.10から独立させて、もし、ザ・バンド単独のセットの部分の録音があるならそれも合わせてリリースして欲しいと思うのですが。

 よろしく、頼みます。


69年8月31日、ワイト島フェスティバル
ボブ・ディラン&ザ・バンド

1. She Belongs to Me
2. I Threw It All Away
3. Maggie's Farm

-Dylan solo-
4. Wild Mountain Thyme
5. It Ain't Me, Babe
6. To Ramona
7. Mr. Tambourine Man

8. I Dreamed I Saw St. Augustine
9. Lay Lady Lay
10. Highway 61 Revisited
11. One Too Many Mornings
12. I Pity the Poor Immigrant
13. Like a Rolling Stone
14. I'll Be Your Baby Tonight
15. Quinn the Eskimo (The Mighty Quinn)
16. Minstrel Boy
17. Rainy Day Women #12 & 35

2013.07.24

ディランのブートレッグ・シリーズ第10集、Another Self Portrait について

●ボブ・ディランのブートレッグ・シリーズ第10集の具体的内容が判明しました。タイトルは Another Self Portrait で発売は8月28日。

Another Self Portrait 1969-1971: Bootleg Series 10
Another Self Portrait 1969-1971: Bootleg Series vol.10

 予告編ビデオもあります。なかなかすごいです。つうか何でギターじゃなくてスネア持って街中を歩いてるんでしょ(笑)。

 Another Self Portrait については、ローリング・ストーン誌に、Andy Greene という人の書いた Bob Dylan Revisits 'Self Portrait' on Next Edition of Bootleg Seriesという充実した記事が出てるので、そちらを参考にしながら以下少々。

●ブートレッグ・シリーズ第10集が「セルフ・ポートレイト」周辺の音源であることはすでに報じられていて、以前少し書きました。あらためて明らかになった収録内容は、

「セルフ・ポートレイト」音源 17トラック(未発表曲7曲)
「ニュー・モーニング」音源 10トラック(未発表曲1曲)

が中心で、それに加えて、

「ナッシュヴィル・スカイライン」音源 2トラック
「ベースメント・テープ」音源 1トラック
「グレイテスト・ヒッツ第2集」音源 1トラック
「ワイト島ライブ」音源 2トラック
「その他」 2トラック

となってます。

 「その他」のうちの一つは「傑作を書く時」のデモ・バージョンで、上の予告編ビデオの最後の方で少し流れてます。「セルフ・ポートレイト」が出た時に、「なんだこの糞は」とレヴューに書いてしまった、グリール・マーカスがあらためて解説を書いてるそうです。

●通常版は2CDですが、4CDのデラックス・エディションも用意されていて、そちらには「セルフ・ポートレイト」のリマスター盤1CDとワイト島のライブ音源の完全版1CDが付きます。

 上のRS誌の記事によると、従来の「セルフ・ポートレイト」に4曲収録されていたワイト島のライブ音源は、ディランのヴォーカルを目立たせて、バックバンド(勿論ザ・バンドです)の音を引っ込ませたミキシングになっていたので、今回の音源ではヴォーカルを少し下げて、ライブっぽいサウンドを強めた(more of the audience sound)ミキシングにしてあるそうです。「セルフ・ポートレート」のワイト島音源を聴いてもそんなにアンバランスな音には聞こえませんが(そもそも演奏自体が荒っぽい)、どんな音に変わっているのか楽しみです。

●RS誌の記事と予告編ビデオによると、昨年、「セルフ・ポートレイト」のミックスダウン中(何のための作業だったんでしょう?)に発見されたテープが元になって、ブートレッグ・シリーズ第10集がセルフ・ポートレイト期の音源になったとのこと。発見されたテープは最初、ナンバリングからマスターと考えられたものの、実際はそうではなく、レコーディングの初期状態の音源をまとめたものだったそうです。

●具体的なトラック・リストを見ると、いくつかの音源はすでに非公式に出回っていた音源と思われ、「ニュー・モーニング」録音セッションでの有名なジョージ・ハリスンとの Working on a Guru もあります(あまり面白い曲とは思えませんが)。予告ビデオでも一部聴ける If Not For Youはフィドルの入ったバージョンで、こちらも(怪しい方の)ブート等で聴けました。

 予告編ビデオで聴ける Went to See the Gypsy はギターを弾いて歌うバージョンになってますが、同曲には数年前に米iTunesで一時配信されていたエレキピアノの弾き語りバージョンもあり、今回の収録曲を見ると、CD1(demo)とCD2(unreleased)に2バージョン収録されているので、おそらくエレキピアノ弾き語りバージョンも収録されているのではないかと思います。

 CD1の5曲目には、Spanish Is the Loving Tongue が入っていて、収録時間からすると、これも非公式に聴けたピアノ引き語りバージョンかと思われます。アルバム「ディラン」(コロンビアが勝手にアウトテイクを編集して発売したアルバム)に収録されたバージョンは、ディランの芸風からしたら冗談としか思えないようなストリングス付きのド派手なアレンジに仕上げられていますが、両者は唖然とするほど違いすぎます(訂正: 記憶違いでした。派手なコーラス付きの大袈裟なアレンジですがストリングスは付いていません)。圧倒的に素晴らしいピアノ弾き語りバージョンがやっと公式に聴けることになり、めでたしです。

●予告編ビデオや(怪しい方の)ブートで聴ける音源、あるいは4月の米レコードストア・デイズ用のシングル盤で聴けたエリック・アンダーソンの Thirsty Boots は、ディランのストレートで伸びやかなボーカルが素晴らしく、この時期の彼の歌に惚れ直してしまう感じ。ディランて、ヘタウマとか変な意味でなく、普通に歌上手い人(というか、上手く歌おうと思えばできる人(笑))ですよね。

●「セルフ・ポートレイト」と「ニュー・モーニング」以外の音源では、Minstrel Boy という曲が The Basement Tapes とクレジットされます。RS誌によるとベースメント・テープス期に出来ていた曲ということですが、大量に出回っているベースメント・テープス音源には見当たらない曲です。ワイト島のステージでは演奏されてる曲ですが、いったいどういう音源なんでしょうか。

●気が早い話ですが、RS誌は関係者の話としてvol.11以降のブートレッグ・シリーズのことにも触れていて、それによると「血の轍」、「ブロンド・オン・ブロンド」のセッションについては出す気満々みたいです。後者については、「聴けば皆、セッションの真のヒーローはピアノのポール・グリフィンと気付く」という意味深なお言葉が紹介されてます。

 また、ベースメント・テープスについても最高の音質に仕上げてボックスで出したいとのことです。あのプライベートな録音をブラッシュupすることって可能なんでしょうか?

 ブートレッグ・シリーズvol.11~13はその3つで決まりかなのかとも思うのですが、さてどうなりますか。

●ここのところ「セルフ・ポートレイト」をよく聴いているのですが、けっこう愛着が湧いてきました。この不思議なアルバムについては、上のRS誌の記事に興味深い話が載っているので、あらためてまた。

 下の写真はデラックス版。

Boot10


The Bootleg Series Vol. 10 Another Self Portrait (1969 - 1971)

-CD1-
1. "Went to See the Gypsy" (demo)
2 "In Search of Little Sadie" (without overdubs, Self Portrait)
3. "Pretty Saro" (unreleased, Self Portrait)
4. "Alberta #3" (alternate version, Self Portrait)
5. "Spanish Is the Loving Tongue" (unreleased, Self Portrait)
6. "Annie's Going to Sing Her Song" (unreleased, Self Portrait)
7. "Time Passes Slowly #1" (alternate version, New Morning)
8. "Only a Hobo" (unreleased, Greatest Hits II)
9. "Minstrel Boy" (unreleased, The Basement Tapes)
10. "I Threw It All Away" (alternate version, Nashville Skyline)
11. "Railroad Bill" (unreleased, Self Portrait)
12. "Thirsty Boots" (unreleased, Self Portrait)
13. "This Evening So Soon" (unreleased, Self Portrait)
14. "These Hands" (unreleased, Self Portrait)
15. "Little Sadie" (without overdubs, Self Portrait)
16. "House Carpenter" (unreleased, Self Portrait)
17. "All the Tired Horses" (without overdubs, Self Portrait)

-CD2-
1. "If Not For You" (alternate version, New Morning)
2. "Wallflower" (alternate version, 1971)
3. "Wigwam" (original version without overdubs, Self Portrait)
4. "Days of '49" (original version without overdubs, Self Portrait)
5. "Working on a Guru" (unreleased, New Morning)
6. "Country Pie" (alternate version, Nashville Skyline)
7. "I'll Be Your Baby Tonight" (Live With the Band, Isle Of Wight 1969)
8. "Highway 61 Revisited" (Live With the Band, Isle Of Wight 1969)
9. "Copper Kettle" (without overdubs, Self Portrait)
10. "Bring Me a Little Water" (unreleased, New Morning)
11. "Sign on the Window" (with orchestral overdubs, New Morning)
12. "Tattle O'Day" (unreleased, Self Portrait)
13. "If Dogs Run Free" (alternate version, New Morning)
14. "New Morning" (with horn section overdubs, New Morning)
15. "Went to See the Gypsy" (alternate version, New Morning)
16. "Belle Isle" (without overdubs, Self Portrait)
17. "Time Passes Slowly #2" (alternate version, New Morning)
18. "When I Paint My Masterpiece" (demo)

69年8月31日、ワイト島ライブ完全版(デラックス・エディションのみ)
1. "She Belongs to Me"
2. "I Threw It All Away"
3. "Maggie's Farm"
4. "Wild Mountain Thyme"
5. "It Ain't Me, Babe"
6. "To Ramona"/"Mr. Tambourine Man"
7. "I Dreamed I Saw St. Augustine"
8. "Lay Lady Lay"
9. "Highway 61 Revisited"
10. "One Too Many Mornings"
11. "I Pity the Poor Immigrant"
12. "Like a Rolling Stone"
13. "I'll Be Your Baby Tonight"
14. "Quinn the Eskimo (The Mighty Quinn)"
15. "Minstrel Boy"
16. "Rainy Day Women #12 & 35"

2013.04.28

ボブ・ディランのブートレッグ・シリーズ Vol.10 について

●次作がちょうど10作目になるボブ・ディランのブートレッグ・シリーズですが、内容は1969-1970年の音源になるようです。

Dylan_wigwam 毎年4月に行われてるインディペンデント系レコード店を支援するイベント、Record Store Day 用の商品に、この時期の音源2曲(Wigwam と Thirsty Boots)を収録した7インチ・シングルがVol.10からの先行ということで先頃リリースされてます(左写真)。ソニーの公式サイトで買ってみたのですが、アナログ・プレイヤーを外したままなのでまだ聴けてません。ちょっと不思議な曲である Wigwam については、カバーの裏面には「デモ・ヴァージョン」と書かれています。Thirsty Boots はエリック・アンダーソンの曲。

 ディランのファンジン ISIS では Self Portrait セッションのアウトテイクやオーバーダブを省いた音源がもっぱら指摘されてますが、他のサイトによると Nashville Skyline から Dylan までの音源ではないかということです。

●この時期にリリースされたアルバムをリリース年順(録音時期はクリントン・へイリンの The Recording Sessions 1960-1994 から。主なセッションのみ)に見ると、

1969 Nashville Skyline(69年2月ナッシュヴィル録音)
1970 Self Portrait(69年4月、5月ナッシュヴィル録音、70年3月NY録音)
1970 New Morning(70年5月、6月NY録音)
1971 Greatest Hits Vol. II(71年3月、9月NY録音)
1973 Dylan(70年6月、71年11月NY録音)

 一言で言えば「ナッシュヴィル期」ということになるんでしょう。

 リリース時期は73年にまで及んでますが、73年リリースの Dylan は、アサイラムに移籍の決まった後に契約上の理由で Self Portrait と New Morning のアウトテイクから作られたアルバムで、ディラン本人は制作に関与してません(米本国ではCD化されていないし、過去にCD化された日本でも再発はなく品切れ状態)。

 Self Portrait は2枚組の大作と言えば聞こえはいいですがポップソングのカバーとワイト島のライブ音源中心で自作曲は少ない変なアルバム。グリール・マーカスにローリング・ストーン誌のレヴューで「何なんだこの糞は?」と書かれてしまったそうですが、誰だって1曲目の All The Tired Horses を聴けば同じような感想を持つでしょう。自分も愛聴盤とはほど遠く、ろくに聴き込むことなく今日に至ってます。

 クリントン・へイリンの本によると、ディランはこの時期にカバー集とオリジナル集の2枚のアルバムを作ろうとしていたとありますが、Self Portrait はそれにワイト島のライブ音源が混ざって、グチャグチャになった印象です。この時期のセッションのデータはへイリンの本やオロフさんのサイトを見れば分かるのですが、実際にはどんな音源が残されてたのか、Vol.10 が楽しみです。

●70年の5月1日にはジョージ・ハリスンとNYのコロンビアのスタジオでセッションをしていて、それらはブート等で非公式に聴けますが、ハリスンの音源を収録するとなると契約上の問題もあるので、はたして収録されるんでしょうか。ザ・バンドとのワイト島でのライブ音源(69年8月31日)の未発表分もありますが、そちらもどうなるのか。

●Vol.10のリリースは秋でしょうから、それまでに Self Portrait や New Morning をもっとちゃんと聴いて、その時期の周辺についてちょっと私的に整理してリリースに臨もうかなと思います。真面目。

2012.07.21

ボブ・ディランの新作 Tempest が9月にリリース

●ボブ・ディランの新作が9月11日に出ます。すでに色々情報出てますが書いておきます。

Tempest
Tempest

 タイトルはTempest(大嵐、大騒動)で、収録曲は下記の10曲で68分。公式サイトのリリース情報はこちら

●表カバーに使われてる彫刻像のアップ写真は、ウィーンにあるオーストリア議会建物の正面にある彫刻像の一部だそうで、ディランのファンジンISISによると、オリジナルはこちらだそうです(既存写真の有償使用は、前作 Together Torough Life と同様)。よく調べられるもんだと思いましたが、曲数、総時間も5月にISISが伝えたものと一致。内部のどなたかがこっそり情報教えてくれるんでしょうか。おそろしや。

●以前から伝えられていたとおり、タイタニックについての歌(ISISによれば14分の曲)が入ってるそうですが、ジョン・レノンについての歌も入るという情報あり。収録曲見ると最終曲の Roll On John がそれに該当すると推測されます。

 奇しくも同名曲は、1962年2月に行われたラジオ・ショー(Cynthia Gooding Radio Show)を収録した有名ブート Folksinger's Choice にも入ってますが、そちらはトラッド曲で、詩もレノンと関係ありません。トラッドの歌詞を差し替えるという手もありますけど、曲調は今のディランのスタイルではないし、Tempest 収録の Roll On John ははたしてどんな曲なんでしょう。

 とりあえず、ディラン版トラッドのRoll On John はこんな感じでした。

 録音に参加したデヴィッド・イダルゴが語ってたメキシコ音楽へのアプローチとかも楽しみ。

●Tempest というタイトルがシェイクスピアの最後の作品名と一致しているため、これがディラン最後の作品では、とか適当につぶやいてる記事も出てますが、そういう変なご意見は勘弁していただきたいです。

●ディランは8月から10月までUSツアーの日程がびっしり。昨秋の欧州ツアー同様マーク・ノップラーのバンドと回ります(共演もありました)。10月17、18日開催のサンフランシスコ、Bill Graham Civic Auditorium は市内にいれば地下鉄で行けるし、ダメもとでチケットだけ買おうかな。


Bob Dylan / Tempest

1. Duquesne Whistle
2. Soon After Midnight
3. Narrow Way
4. Long And Wasted Years
5. Pay In Blood
6. Scarlet Town
7. Early Roman Kings
8. Tin Angel
9. Tempest
10. Roll On John

2012.05.28

ボブ・ディランの新作は9月リリース?

●先にレコーディングに参加したデヴィッド・イダルゴ(ロス・ロボス)がポロリと漏らしてしまい、録音中であるとバレてしまったボブ・ディランの新作について、ディランのファンジンISISのWeb版(5月26日付)がさらに伝えてます。

●録音がスタートしたのは今年の1月。場所はサンタモニカにあるジャクソン・ブラウン所有のスタジオで、Together Through Life を録音した場所と同じ。録音期間は2ヶ月。すでにソニー内部でのリスニング・セッションが行われてる模様。

 アルバムは全10曲で、68分。14分に渡るタイタニックについての曲を含み、リリースは9月の予定。アスペン・タイムスに語ったイダルゴの言葉によれば、彼が参加した以前のディランのレコーディングとはまったく違うということです(The recording session, he said, was nothing like the earlier ones he had done with Dylan.)。単にイダルゴも参加してるクリスマスアルバムとは違うという意味なのかな。

 録音時スタジオにはメキシコの楽器が複数あったということで、彼はディランのメキシコ音楽への関心を嬉しいと語ってます。すべての曲が異なっていて、それぞれアプローチが違うとイダルゴは語ってますが、さて。

 もちろん非公式なソースを元にしたもので、イダルゴの言葉以外は正式に確認の取れてるものではありません。

●5月24日に71才になったボブ・ディランは、4月12日から5月12日までの中南米ツアーを終え、次回公演は6月30日、英国、ケントでのHop Farm Festival。その後7月22日までヨーロッパを回ります。

2011.08.22

Wolfgang Vault で見れる「ラスト・ワルツ」の別映像(続き)

●前回の続きで Wolfgang Vault の「ラスト・ワルツ」映像の話で、ボブ・ディランの出演シーンについて。

 ボブ・ディランのシーンは、映画「ラスト・ワルツ」では、フェード・インするように入ってくる Forever Young 以降の映像しか見ることができません。初めて映画を見たときは、単にこのシーンだけを使ったのかなと思ってましたが実は映画用のフィルムもForever Young 以降のシーンしか撮影されていないことを、前回触れたリヴォンの本(「ザ・バンド 軌跡」)を読んで知りました。

 本の中に、ディラン側の撮影許可が取れないままディランのステージが始まってしまい、ようやく最後の2曲を強硬撮影した様子が書かれてます。

 最後の二曲になった。技術係があわててヘッドセットをつけ、カメラがむきを変え、照明がつき、ステージはふたたび映画のセットと化した。<フォーエヴァー・ヤング>のあと、ボブがまた<ベビー・レット・ミー・フォロー・ユー・ダウン>をやりだした。ぼくたちはおどろいたが、きっとボブは映画の中に昔のロックンロールが一曲もないことに気づいたのだと考え、あとに続いた。やがてボブもくわわって大フィナーレがはじまり、ステージの横でビル・グレアムが大きな声でボブの側近たちを止めようとしていた。演奏がつづくなかで、このごたごたがあり、ビルが「ばか!カメラをまわせ!これをとらなきゃだめだ!」とさけぶのが聞こえた。ボブは怒ってなかったし、ぼくたちも笑ってそのままよい演奏を続けた。(253頁)

 ということです。グレアムのやったことは完全に正しかったと思われます。というか、あのフィナーレが撮影されなかったかもしれないことを考えるとゾッとします。

●Wolfgang Vault の映像はボブのセットもすべて見ることができるのはありがたいです。最初のBaby Let Me Follow You Downから演奏部分は修正されまくってますが、ボブのヴォーカルはそのままだと思います。さすがにディランにスタジオでもう一度やれとは言えなかった思いますが、そもそも修正の必要をまったく感じない出来。

●Forever Young 中間のロビーの素晴らしいソロはそのまま使われてます。その後で、ボブが最前列の客の方を向いて微笑むシーン(下の画像。DVDより)は、自分が最も好きなシーンなのですが、Wolfgang Vault の映像(4:14あたり)だとちょっと分かりにくいですね。ボブはヴォーカルに戻った後もそちらの方を指さすシーンもあるのですが、あれはどういうやりとりなのでしょう。

Lw_bob1

●無修正音源を聴くと、修正というより別音源というくらいの差し替えがある箇所もあり、もはやドキュメンタリーとしての同一性すら疑わしいくらい。

 前回書いたジョン・サイモンの言葉によると、ホーンセクションは取り直したということですが、例えば、The Shape I'm In はそもそも「ラスト・ワルツ」のステージではホーンなしの演奏なので、公式版は完全なオーヴァーダブです。映画の同曲のシーンでは、ステージ上にホーンが映ってないのにホーンが鳴るという不思議な場面が展開されますが、無修正音源を初めて聴くまで自分はそのことに気づきませんでした。

●ちなみに、ザ・バンドは「ラスト・ワルツ」の年の76年にもツアーをやっていますが、FMで中継された9月18日のNY、Palladiumでの演奏を聴くとThe Shape I'm In はホーン付で演奏されてます。ツアー時にホーン付で演奏しているのに、ラスト・ワルツ(11月25日)ではなぜホーンを外し、あとで丸々オーヴァーダブするという面倒なことをしたのか不思議です。
(キング・ビスキット・フラワー・アワー音源の聴ける8月16日のDC公演はホーンなし。上のNY公演は Palladium のこけら落とし公演)

●「映画」を見ても、リヴォンの本を読んでも、ろくに準備もせず行き当たりばったりでカメラ回している凡百のライブ映画と異なり、スコセッシは周到な準備をして「ラスト・ワルツ」に臨んでるのが分かると思いますが、音楽好きの知人を話していると、スコセッシの音楽映画が好きでないという人も結構います。
 劇映画のように緻密に構成し過ぎて、ライブ演奏の「生」の雰囲気が吹っ飛んだ「作り物感」がするあたりが嫌われる理由なのかな、と思うのですが。ストーンズの映画だと 作り物的な Shine a Light(スコセッシ) より Let's Spend The Night Together(ハル・アシュビー) の方が好まれるみたいな。

●スコセッシは、ジョージ・ハリスンのドキュメンタリー映画「Living In The Material World」を制作していて、初公開はテレビで、10月5日に米HBOで放送予定(リンク先で予告編が見れます。映画館公開は11月23日)。ボブの No Direction Home はとても良かったので、むしろドキュメンタリー映画の方が抵抗なく受け入れられるのかなと思います。

 NHKも共同制作として関わっているので、No Direction Home の時同様、日本でも放送されるはず。今まで必ずしも深く掘り下げられて来たとは言えないクラプトンとの交友関係も触れられるはずだし、大変楽しみです。

2011.05.14

ボブ・ディランが、To my fans and followers で「中国公演問題」に返答する。

●4月に史上初めて実現したボブ・ディランの中国公演ですが。

 公演直後から、おそらくは近年のディランの音楽などろくに聞いてもいない記者による、コンサートの内容とは無関係なテキトーな記事が散見されました(いろいろな推測は、去年、中国公演がなかった時点ですでにありましたが)。

●それらの記事の中でもっとも酷いものが、おそらく、ニュー・ヨーク・タイムズ紙のコラムニスト Maureen Dowd によって書かれた。Blowin’in the Idiot Wind というタイトルの記事です。タイトルも酷いですが、酷いのは内容もそうで、ボブを社会派プロテストシンガーの枠に勝手に閉じこめて、(中国の)独裁に対して抗議しない、商業主義と妥協した人、みたいに結論づけてます。(最初読んだときの文章と一部違うようですが、記憶違い?)

●このコラムに対しては、賛否両論250ものコメントが寄せられただけでなく、一部のファンから公開質問状を突きつけられる騒動にまで発展しましたが、こういう勘違い記者は、ろくに音楽など聴いてないのですから、妄想だらけの記事しか書けないというのは仕方なく、ある意味諦めるしかありません。

 朝日新聞にも検閲問題ばかりにクローズアップして変な記事が載りましたが、これらの記事に共通なのは、最近の曲だけでなく、過去の曲でも超有名曲以外は聞いてないオーラが濃厚に漂ってること。もちろん、最近のセットリストなんて何も知らんのでしょう。

●で、このまま事態は沈静化するかと思いきや、5月13日、突然 dylan.comに、To my fans and followers というタイトルで「中国公演問題」についてのボブ側からの公式なメッセージが掲載されました。ボブ本人が実際に書いたメッセージかどうかはともかく、彼が一人称で公式にメッセージを出すことはほとんどないので、「中国問題」に対してかなりナーバスになっていたのかもしれません。

 以下、To my fans and followers の内容です。

 1年以上続いている、「中国公演騒動」の幾つかについて、はっきりさせておきたいと思います。まず、私たちの中国公演が不許可になったということは一切ないということです。そういう話は、日本、韓国ツアー後に、中国公演を開きたかった中国側プロモーターから出てきた話です。おそらく、合意なしの見切り発車で話をすすめて、チケットの印刷までしてしまったプロモーターの作り話ではないでしょうか。当時、私たちは中国公演を行う計画はありませんでした。中国公演が実現しないことになった時点で、プロモーターが体面を保ち、非難を避けるために、中国当局が公演を不許可にしたということにせざるを得なかったということなのでしょう。もし、中国当局に事実関係を確認することを厭わない人がいたならば、中国当局がこの事態について関知していないことが明らかになったはずです。

 私たちは今年、別のプロモーターの下で、中国公演を実現させました。MOJO誌の報道では、聴衆のほとんが外国人客で、ホールは空席だらけだった、ということにされました。それは真実ではありません。コンサートに行った人たちに確認すれば、聴衆のほとんどは中国の若者達で、外国人客は僅かだったということがわかるはずです。外国人客が多かったのは香港公演であって、北京公演ではありません。13,000枚のチケットのうち12,000枚が売れ、残りは孤児の招待用に使われました。

 中国メディアは私を60年代のアイコンとしてもてはやしました。街の至る所に私の写真が貼り出され、それらはジョーン・バエズ、チェ・ゲバラ、ジャック・ケルアック、アレン・ギンズバークの写真と一緒にされました。コンサートの聴衆は彼らが誰なのかわからなかったと思います。にもかからず、コンサートでは新しい4,5作のアルバムからの曲に対して熱狂的な反応がありました。誰でもよいのでコンサートに行った人に訊いてみてください。聴衆は若く、私の初期の曲は知らなかったと思います。

 検閲はなかったわけではなく、中国政府から演奏予定曲のリストを提出するよう要求されました。論理的な返答などしようがなかったので、私たちは過去3ヶ月分のセット・リストを送りました。文節や言葉の検閲された曲があったかどうか、今のところ分かりません。私たちは、やりたい曲をすべて演奏しました。

 誰もが知っているように、私に関する無数の書物が今までに書かれてきたし、これからも書かれるでしょう。今まで私に会った人、私から話を聞いた人、私と面識をもった人たちは、どうぞ同じことをすればよいし、適当に書き散らかせばよいと思います。その中に、偉大な本があるかどうかなんて、誰も分かりはしないでしょう。


●前半部分の、去年中国公演の開催に失敗したプロモーターの作り話云々の箇所はボブ本人の言葉ではないのかなという気がしますが、最後の皮肉めいた一節はボブ色が濃いように思います。まあ、ご判断はお任せします。近年の作品をちゃんと聞いてるファンに対するリスペクトも伝わってきます。
(おかしな訳があったらご指摘よろしく)

●以上、珍しいボブの一人称メッセージでした。

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