●ようやく出たボビー・ホイットロックの自伝です。
Bobby Whitlock: A Rock 'n' Roll Autobiography
当初、2010年の秋発売予定だったのが年末に延び、さらに2011年の春先に延びたと思ったら、あっさり1月下旬に出ました。レイラの40周年盤に微妙に合わせたのかなという気はしますが。
●巻頭の謝辞によれば、この本を書くきっかけとなったのが、アメリカの音楽掲示板 Steve Hoffman Music Forum に寄せられた質問だったそうで、「レイラ」のアルバム・カバー内側に写っている女の人は誰なのかという質問を彼の妻のココが偶然発見し、ココ経由で彼が答えたことから始まって質疑応答が膨らんでいき、そこから本を書くことになったとのこと。
本にするよう勧めたのはマーク・ロバーティで、この本にも協力者として表記されてます。序文はクラプトン。自伝の端緒になった Steve Hoffman Music Forum の該当スレッドはこちら。
そういえば、デラニー&ボニーのアルバム On Tour with Eric Clapton がかなりオーバー・ダブされている、というボビーの種明かしがあったのも Steve Hoffman Forum で、たぶんそのネタもそこでの一連の質疑応答の中で披露された話だったのでしょう。
●当然、興味があるのは、デラニー&ボニーへの参加からドミノスでの活動について書かれた箇所なのですが、かなり興味深い話が満載です。
特にジョージの All Things Must Pass と Layla の2アルバムについては、それぞれ All Things Must Pass Track by Track と Layla Album Song by Song という章を設けて、収録曲についてかなり興味深いエピソードやデータを語ってくれてます。特に前者は曲毎の参加ミュージシャンのデータに不明瞭なところがあったので一線級の資料になることは間違いないです。
●Layla については、例えばフェイド・インで始まるのが不思議だった Key To The Highway について、
Key To The Highway は録音中に発生したジャム・セッションの中の一つで、もともとは、Hard and Heavy というアルバムをレコーディング中のサム・ザ・シャム(Sam The Sham)がこの曲をやろうとしているのを知ったエリックが自分たちもやってみよう、ということで始めた曲だった。我々はトム・ダウドがちょうど中座した時に自然に演奏を始めてしまった。この曲が途中からしか収録されていないのは、トムが戻ってきた後だけが録音されているからで、彼は「フェーダーを上げろ!」と叫びながらスタジオに駆け戻ってきたのだった。(p96)
スタジオ内での演奏はすべてテープを回して収録させていたというトム・ダウドにしてみれば、テープを回してないところで勝手に演奏されるというのは一大事なわけで。そりゃ叫びたくもなるでしょう。
というか、もしダウドが戻ってこなければあの超ド級の演奏は録音されずに消えていたということですから恐ろしや・・・
ちなみに、トム・ダウドの二股プロデュースの下、ドミノスと同時期にクライテリア・スタジオで録音していたサム・ザ・シャムの Hard and Heavy の中で、少なくとも1曲(Goin' Upstairs)はデュアン・オールマンがゲストで弾いているそうですが私は聴いたことがありません。
●あるいは、アルバム最後の曲 Thorn Tree in The Garden について、
この曲は、かつて私の住み家からいなくなってしまった子犬についての歌で、我々はレコーディングの最終日に演奏した。我々は意図的に無指向性マイクの周りを囲むように座った。木製スツールに座った私の左にエリック、ジムは彼の左、やや下がり気味のところでベルを鳴らした。デュアンは私のちょうど向かい側、やや右寄りの位置に座りドブロを弾いた。カールはジムとデュアンの間でベースを弾いた。我々は通しで2回演奏して、最適なポジションを確認し、テープを回した。ワンテイクで完了。トム・ダウドは自分の行った最高のステレオ録音だと語った。全員で1つのマイクを囲み、完璧という他なかった。(p97)
「庭の木」って犬の話でしたか。ずっとラブ・ソングと思って聴いてましたが・・・
●関心のあるところだけの摘み読みですが、驚くのはホィットロックの記憶力のすごさ。例えば、かなり高音質のソースが残されたフィラデルフィアの Electric Factory で演奏した時の話。
当日、ホテルに向かう途中、コンサートの告知看板が Eric Clapton and His Band になっているのに気づいたクラプトンがガソリン・スタンドで車を止めさせてロンドンに国際電話をかけ、看板から自分の名前を消さない限りショーをキャンセルするとゴネたそうで、実際、看板は書き換えられたそうです。ソールドアウトのショーだったので一瞬みんなビビったと。
デュアンが参加したタンパ公演の録音も最近聴いたそうですが(当然ブート音源でしょう)、レイラ・セッションでのデュアンについてはかなり賞賛する一方で、ライブでのデュアンについては微妙に音楽の方向性が違うのではないか、ということを自分とグレッグ・オールマンの演奏スタイルの違いに触れながら語ってます。デュアンは数回参加したと語っているので、デュアンがタンパ以外でも弾いたのはほぼ間違いないと思われます。
興味のない人間にとってはどうでもいいような音楽とは無関係な話もありますが、少なくともドミノスに関しては、埋められるパズルのピースについては、音源はもちろん、ヨタ話の類まですべて知りたいと思っている私のような人間にとっては、非常に興味深い話が色々出てきます。
●私的に興味深かったのが、The Domino Flat という章の中に、ロバート・スティグウッドがロンドン滞在中のドミノスのリズム隊3人のために、地下鉄 South Kensington 駅そばの 33 Thurloe Street というところにアパートを借りたという記述。グーグルマップで検索したら、なんと、South Kensington 駅舎の向かいじゃないですか。
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ロイヤル・アルバート・ホールの最寄り駅なので、ここの前を何度か通ったことがあります。何も知らずにすたこら通り過ぎてましたが、もしまた行く機会があったら、拝みながら通ることにします。
●読んでたら、ドミノスの音源をいろいろ聴き直してみたくなり、実際聴きました。そうやって40周年盤も買わせようとするのがあちらの手なんでしょうけど(笑)。でも、この本を書いてくれたホイットロックには感謝せずにはいられません。全部読まないかも知れませんが(ごめんボビー)。
翻訳版も出るという話も聞きましたが具体的な情報はまだ分かりません。地味なジャンルなんでどうでしょう。
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