山下達郎の新フェスティバルホール公演を見る
●山下達郎のフェスティバルホール公演に行ってきました。5月3日、4日の2公演。
●8月からツアーが始まりますが、それとは別の新フェスティバルホールのオープンに合わせた2日間だけの公演で、フェスティバルホール主催。チケットは「ぴあ」のようなチケットサイトでは売らずフェスティバルホールのサイトを通じてしか売らなかったので、発売1時間後でもチケットが買えたのは意外でした(たぶん単位時間当たりのチケット処理数が少ない)。自分は2枚買え、友人も2枚買え、日にちもダブらないという普段の行いの良さゆえの天の恵みも手伝い、3日と4日の両方の公演を拝ませてもらいました。連休ありがたや。
●上の画像はパンフレットの一部ですが、写ってるメガホンは旧フェスティバルホールの備品です。山下達郎のコンサートではメガホンを使ったお遊び箇所があるので、ホールの関係者が建替えによる一時閉館の時にくださったそうです。今回、このメガホンは無事新ホールに帰還しました。返したのかそのまま持ってるのかは知りません(笑)。
ちなみに、旧フェスティバルホールの最後の公演は大阪フィルの「第9」でしたが(2008年12月30日)、ロック系の最終公演は山下達郎で(2008年12月28日)、6年ぶりにツアーをやった動機の一つは彼が愛した旧ホールが取壊しでなくなってしまうことでした。
●正直に言ってしまうと、彼のやってる音楽は自分の好みのツボからはズレてます。
初めて山下達郎という人のコンサートを見たのはまだ最近。彼がツアーを再開した2008年です(しかもなぜか長崎公演)。彼の音楽を録音でしか知らず、生のコンサートを見て圧倒される体験をしていなかったなら、彼のコンサートに毎回行こう、遠征してまで見ようなどという気にはなっていなかったと思います。自分が山下達郎という人から感じるのは、天才なんてものではなく努力の人。意志の力で妥協せず一つ一つ積み上げていけば、どれだけ高いところにまで登れるかを身をもって示す人。自分がこの人に圧倒されてしまうのはそういうところ。
●今回の2公演はツアー時のような舞台セットはなく、背後にシンプルで抽象的な映像が映るだけ。私はこっちの方が好きかも。
内容は年季の入ったファンの方が色々報告してくれると思いますが、ほとんどやらなくなってた曲、ステージ初披露曲も登場し、コアなファンの人たちは結構喜んでました(私はコアではないです)。いつもやる曲でも歌や演奏のクオリティがとても高いのでそれだけでも満足なんですが。
●印象に残ったところは多いですが、その一つが、自分は音楽をやる人間だから政治的なお話はしない。でも最近は色々考えることが多い、と語ってから歌われた Dancerという曲と続けて間を置かずに歌われた「希望という名の光」の箇所。
Dancer は、学園紛争の時代、自分の先祖の生まれた王道楽土に帰るといって朝鮮半島へ去って行ったきり二度と会ってないし現在もどこにいるか分からないという知人を思って昔書いた歌だと紹介してましたが、立ち位置を見つけられない状態をシニカルに歌う曲(2度ある長いサックス・ソロは聴き応えあり)。「希望という名の光」というスピリチュアルな内容の曲をその直後に聴くと、この曲が普段演奏される時とは違った意味で、独特の重みを持つように感じられました。
今回はあまりきっちり作り上げず、カジュアルなショーをするつもりと本人は語ってましたが、それでも、こういう瞬間を作り上げてしまうのが山下達郎という人なのですよねえ。
●最近はカバー曲が多いけど普通のヒット曲のカバーをやる人が多い、自分は人がやれないようなカバーをやりますと言って歌いだしたのが、ビーチ・ボーイズの God Only Knows とラスカルズの Groovin'。前者は始まった瞬間驚きの拍手という感じで、特に初日は会場がちょっとどよめきました。しかもアレンジはフレンチ・ホルンのパートもキーボードで再現したビーチ・ボーイズの完全コピー。良いもの聴かせてもらいました。延々と続くようなエンディングの多重コーラスはちょっと短めでしたけど。
●2日目の方が2曲多かったですが、両日とも素晴らしかったので初日だけ聴いた人は残念がる必要はございません。拍手が止まず次の曲に移れないことが何度も起きたのは二日とも同じ(普段のツアーでもこういうことはほとんど起きません。ご本人曰く「ええ、お客さんや~」)。ただ、2日目の方がちょっとリラックスしてたかも。Bomberのカッティングソロは2日目の方がノリノリで長かったし。ちょっとリズムずれたりして、本人はそういうの嫌でしょうけど、いいんですよ、それで(笑)。
●オープニングの「新・東京ラプソディー」の歌詞の「東京」の部分が「大阪」に変えて歌われたり、その他、大阪の人を喜ばせるような、この街に対する愛情のある言葉がそこかしこで聞けました。私は大阪いまいち馴染めま・・・あ、いや、あまり良く知りません、この街のこと。達郎氏はどこの公演でも、ここはワン・アンド・オンリーのスペシャル、という話を嫌味なしに語ります。プロですね。
セットリストは吉岡正晴さんのブログにレヴューと一緒に載ってます。
●という感じで、公演当日の午後に大阪入りし、5日の午前中に東京に戻ってまいりました。ちょっとベタな観光もしたのですが、ちとくたびれました。体力もなくなってきたし、旅聴きするときはもう音楽だけ聴ければいいや、って感じですかねえ。それで十分満たされるし。
●新装なったフェスティバルホールのことも少し書いておきます。
2008年12月に建替えのために閉館した際の、このホールでの最後の公演(大阪フィルの「第9」)も見ていて、その時に書いた文章をあらためて読み返したら、「神様が許しくくれればまた来ます。」とありました。あれから4年半近く。神様は新しいホールを見ることを私に許してくれたわけですね。月日の経つのはなんと早いこと。
ホールは巨大高層ビルの一部に生まれ変わりましたが、旧ホールの川側の外壁にあった牧神のオブジェはそのまま再現されてます。
●内部が全体的に赤いトーンで統一されてるのは旧ホールと同じ。ビル内に入るとすぐ大階段。登りきったところに入場ゲート。ゲートを入ると進路は右に折れ、少し行くと長いエスカレーター。大階段とはちょうど逆向きの方向にホールへ上がって行きます。客席までの導線が長いホールというと東京国際フォーラムのホールAを思い出しますが、あれは、お客さんの利便のことなど考えずにデザイン優先で作られた臭いがぷんぷんします。新フェスティバルホールにはそういう感じはしませんでした。私個人の印象ですが。
このエスカレーター、天井が低く薄暗いので、なんだかディズニーランドのスペースマウンテンの最初の所を思い出したのですけど。
入場してから席に着くまで少し時間がかかるので初日の公演は15分くらい遅れて始まりました。ホールの担当の方は、お越しの際は多少お早めにどうぞ、ということです(笑)。
●2日とも3階席で見ましたが、ステージまでの距離はそれほど遠くなく、旧ホールの2階席の上の方から見るのとそれほど変わらないように思いました(旧ホールの印象は以前訪れたときに2階に上がって見下ろしてみただけですが)。椅子は前後のピッチがたっぷりあるので座りやすいです。座席前後の段差はけっこうあるので人の頭でステージが見にくいこともなし。
キャパの違いはありますが東京のNHKホールの3階席よりステージは近いです。雰囲気は公式サイトで確認できるので、そちらでどうぞ。
●当然PAを使ったコンサートでしたが、音はとてもバランスが良く聴きやすかったです。音の悪いホールにあるような、回りこみの多い、特に低音がブーミーでボワンボワン鳴るような感じがまったくありません。山下達郎は音にやまかしい人なので音響スタッフも優秀な方々だと思いますが、これだけの音で鳴らせるのだから聴きにくい音しか出せないならそれは単純にスタッフの技量の問題だと思います。まあ、新ホールの音響担当は世界中で実績を積んでいる永田音響設計なので。
クラシックの生音はまだ未体験ですが、可能ならそのうち体験してみたいです。神社仏閣や温泉巡って日本中旅する人がいるなら、ホール巡りするような変人がいたって別にいいでしょう。
●旧ホールにも飾られていた過去の出演者の写真(クラシック系の出演者中心)は、3階席のフロアにあるので、1、2階席の人は気がつかなかった方も多いかも。同じ所に71~78年まで使われてたスタインウェイ・ピアノも展示されてます。
●昔は、ツェッペリンもクラプトンもニール・ヤングもみなここでやったし、中止になってしまったウイングスも1回はここが会場にあてがわれてました。今は大物のロック・コンサートは巨大会場でしか開かれなくなってしまったので、新フェスでポップ、ロック系の大物を聴く機会はおそらく少ないでしょう。建物以上に、コンサート環境の方が大きく変わってしまったわけですね。ちょっと残念ではあります。
●新しいホールがあと何十年建っているかは分かりませんが、次の建替えがあっても自分はその時この世にはいません。たぶん(笑)。
次回はクラシックで来てみたいです。
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