これ、「レイラ」だけに焦点を当てた映画ではないです。トム・ダウド(1925-2002)の功績を辿った映画で、「レイラ」はあくまで映画の一部。終盤に出てくるそのシーンは素晴らしすぎますけど。
トム・ダウド いとしのレイラをミックスした男
●自分は、字幕のない輸入盤(英字幕もなし)を買って摘み食い的に見てましたが、最近、国内盤を買ってあらためてじっくり見てみました。
国内盤は、本編とボーナス編が別ディスクの2枚組ですが、リージョン・フリーで1枚物の輸入盤にも同じボーナスが入ってます。
チャプター画面は、国内盤は文字だけのシンプルな物に換えられていて、これは映画スタイルのチャプターの輸入盤の方が奇麗です。
日本盤はディスクのデザインがアトランティックレコードのロゴを模していて面白いです(左が輸入盤、右が国内盤)。それだけですけど(笑)
ま、普通は字幕のある国内盤を買うでしょう。
●以下、DVDより知ったこと。
コロンビア大学の研究所で物理学を研究していた1人の男が、1947年、NYタイムズに載ったアトランティック・レコードのエンジニア募集広告を見なかったら、「プロデューサー」トム・ダウドはポピュラー音楽の歴史の中にはいませんでした。
音楽界入りするまで、トムは、原爆プロジェクト「マンハッタン計画」や戦後の核実験にも関わりましたが、原爆の投下自体には、戦争終結を早めるには仕方なかった、という一般的なアメリカ人と同じ意見です。
(このシーンは本編からカットされて、ボーナス編で見れます)
大学の研究所に採用されたのが16才。戦後、大学に戻って教員になることを止めた理由は、大学で教える内容が、すでに自分たちが研究した成果より10年古く、意義を見いだせなかったからだとか。いやはや凄いす・・・
とにかく、音楽大好きの陽気なオジサンみたいな口調でしゃべりまくりますが、実は大変な超インテリだったんですな、トムさん。
●で、いきなり、アトランティック入りって、ちょっと、あなた(笑)。
父親が劇場関係のマネージャー、プロデューサー、母親が歌手で、楽器を習いながら育ったということで、音楽との縁はしっかりありました。学校で吹奏楽の指揮者までやってます。
ある程度時間をさいているシーンは、レイ・チャールズ、コルトレーン、多重録音の先駆者レス・ポール、リーバー&ストーラー、スタックスとの関わり、アレサ・フランクリン、クラプトン(クリーム、ドミノス含む。Sunshine of Your Love のエピソードは面白いです)、オールマンズ等。
アトランティックの2大重鎮、先日亡くなったアーメット・アーティガンとジェリー・ウェクスラー(Billboad誌からアトランティックに移籍、トムより八つ年上で来年で90才)の登場シーンも当然あります。
自分は、R&B(リズム&ブルース)という言葉を生み出したのが、ジェリー・ウェクスラーだったとは、この映画を見るまで知りませんでした(アーティガンの訃報で紹介した、「アトランティック・レコード物語」に書いてあるかもしれませんが)。
8トラック・レコーディングの導入、スライド式コンソールの開発、それらによる録音方式の発展に、トムが、メカニカル面だけでなく「音楽的」に貢献したか良く分かります。ドミノスのシーンで、クラプトンが、トムが単なるエンジニアでなく、成熟した「音楽家」であったと強調するのは象徴的でしょう。
なお、67年に、トムがジョージ・マーチンと会ったときに、ビートルズは4トラックしか使ってなかったというエピソードが出てきますが、むしろ、4トラックで「サージェント・ペッパー」を作ってしまった方が驚きというべきかもしれません(ビートルズが8トラックを使ったのはホワイトアルバムから)。
個人的な思い入れを抜きにして(抜きにできんですが)、映画のクライマックスはドミノスのシーンで、レイラのマルチ・トラック・テープを再生しながら、嬉々として各トラックの音をいじるダウドの姿は感動的です。ピアノ・エンディング前のクラプトンとデュアンのバトルを両者の音だけ抜き出して鳴らすシーンは、やはり鳥肌もの。それと、ピアノ・エンディングに入ってからのカール・レイドルの生々しいベース音にも驚かされます。
このシーンを見てて、正直、トム・ダウドによる21世紀版新リミックス・レイラを聴いてみたかったという妄想にかられましたね、わたしゃ。
●ボーナス編では、本編でカットされたインタビューも見れて、
「オールマン・ブラザース・バンドは最高のフュージョンバンド」
「クラプトンは、弦楽器に限らずあらゆる楽器・奏法に興味を持っていて、それをギターにどう生かせるか考えていた」
なんて、なかなか興味深いです。
ボーナス部で特に印象的なのは、デュアンの事故死を電話で知らされた時のことを話すシーンで、それまでオールマンズの音楽作りついて饒舌に語っていたダウドが、急に言葉に詰まりだすところは、やはりホロっときます(放心状態のダウドはデュアンの葬儀に列席してないそうです)。
オールマンズのジェイモーは、インタビュー・シーンを見る限り、想像してたより物静かで知的な人でした。
それから、D.ガレスピーの変形トランペットについて、地下の狭いクラブで演奏するときでも、音がステージ近くに密集している客の中に埋もれずに良く響くように作らせた、というエピソードが出てきます。
自分の記憶では、ディジー自身が「椅子に置いてあったトランペットを誰かが誤って座って変形させてしまい、そのまま吹いてみたら意外と良かったから・・・」というような話をしてたような気がするんですが・・・後者はディジーのお茶目な作り話なのかもしれません(それか私の勘違い)。
このボーナス編インタビューはかなり豊富な分量です。
●根気がなくなったので、まとめはしません。っていうかできんです。
ポピュラー音楽史に興味のある人はかなり楽しめると思います。ただ演奏シーンが目当ての人は失望するので買わない方がよいです。英語版の公式サイトがあり、mp3やpdfのバイオグラフィーもあります。
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