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2013.09.30

ザ・バンド、Live at the Academy Of Music 1971 を聴く

●1972年にリリースされたザ・バンドのライブ・アルバムの名盤 Rock Of Ages の再発版です。

Live at the Academy
Live at the Academy

 ただし。下で述べるように単なる増補版再発などではなく、内容的には新プロダクションです。自分の Rock Of Ages 歴は、アナログ、CD3種、ブート1種に、今回のボックスなので、6個目。長い旅なので、この分章も長くなりそう・・・

Reel●9月27日付のテレグラフ紙に載ったロビー・ロバートソンのインタビューによると、今回のプロダクションのきっかけはレコード会社からの持ちかけで、長年行方不明だった Rock Of Ages(以下、ROA)のマスターが見つかったので何かできないか、という誘いから始まったということです。今回のブックレットにマルチトラックのリールの写真が載ってますが(左写真)、見つかったマスターの写真と思われます。

 インタビューでは、旧ROAのミキシングについても語っていて、当時、マイアミでフィル・レッシュ(原文ママ。たぶんラモーンの間違え)とミキシング作業後、NYに戻り聴き直したものの2人とも満足できず。ラモーンは他の仕事があったため、ロビーがウッドストックの未完成状態のスタジオで作業。マイアミでのミックスよりは良かったものの満足はできなかったとういことです。

Rock_of_ages_2●最初にリリース情報の概略を読んだ時は、重複の多い内容でどれだけ楽しめるのかなと思ったのですが、具体的な内容が分かり、実際に聴いてみると、当初の感想は一変。私的には、内容も音質も旧 ROA (左写真) とは完全に別物という印象を受けました。もちろん未発表トラックを追加してリリースされた2001年の拡大版とも違います。単なる音質改良盤というには、得られるものが多すぎます。

●まず、Disc1と2のボブ・クリアマウンテンがミックスした音源から。

 こちらは複数日の音源の抜粋で、旧ROAと同じテイクを使ってますが、曲順はまったく変わってます。1曲目が歓声の前触れもなしに The W.S. Walcott. Medecine Show でいきなり始まるので、旧ROAの、ロビーのホーン紹介のイントロダクションに続いて、リック・ダンコの印象的なベースから始まる Don't Do It によるオープニングに慣れた人は、「こんなの Rock of Ages じゃない」と思うかもしれません。

●肝心のボブ・クリアマウンテンのミックスですが(以下、BCミックス)、自分は旧ROAとのあまりの違いに驚き、感激しました。

 旧ROAでは、ヴォーカル、ベース、ドラムが中央にモノラル状に定位してるので、音が団子状に固まって聴こえます。しかも、あの、中低音に寄ったモヤっとした音。そういうズシンと重いダウン・トゥ・アースなサウンドこそザ・バンドだ、と思う人もいるでしょう。ここでも、「こんなの Rock of Ages じゃない」言われるかも。

●今回のBCミックスを聴いて驚いたのは、各メンバーが何をしてるか、よく分かるなということ。特にヴォーカル。

 各人のヴォーカルを左右chに振り分けたり、音の定位をずらしているので、このバンドの3人の傑出したリード・ヴォーカルが対旋律でどんな歌を歌ってるか、どんなタイミングでバック・ヴォーカルを被せてくるかが、かなりはっきり分かるようになりました。音が鮮明なので微妙な声のニュアンスの違いも際立ちます。そこだけに集中して、解剖的に聴き続けてもかなり面白いと思います。

 例えば、I Shall Be Released (これは2001年の拡大版で初出でした)。マニュエルのヴォーカルが中央、左右にそれぞれダンコ、ヘルムのヴォーカルを振り分け。オルガン、ベースは中央、左にピアノ、右にギターと綺麗に分けられているので、すべての音が細やかに聴き取れます。

 こういう面白さは、ヴォーカルが多層的に重なり合う曲で際立ちます。This Wheel's On Fire はA・B・Cというシンプルな構成の曲ですが、曲が進むに連れて、B(マニュエル)・C(ヘルム)とヴォーカルが増えていく面白さとか(旧ROAではヴォーカルがすべて中央で団子状に聴こえ、B部分のマニュエルのヴォーカルはほとんど聞こえません。というか、旧版ではB部分のマニュエルのボーカルはカットされてませんか?)。あるいは、King Harvest 冒頭のマニュエル/ヘルムの二重ヴォーカルが対等に聴こえる面白さとか。Rockin' Chair のコーラス部でのヴォーカルの複雑な重なりはホント感動的で、ジーンと来ます。と、書いてたらきりがないです。

●楽器音ではロビーのギターが、目立つようなオブリガートやソロ以外の箇所でも、はっきり聴こえる箇所が増えました(The Weight 全編で良く聴こえるギターなんてすごく面白いです)。全体のサウンドに埋もれがちで聴きにくかったマニュエルのピアノもそう。

 楽器音で一番驚いたのが、ガースが Chest Fever の前で弾く The Genetic Method というタイトルの即興的なソロ。旧ROAのもやっとした感じが取れて、高音域の鮮やかなオルガンの音色は驚きです。ガースは複数の楽器(あるいは、二段の鍵盤)を弾いてますが、両手の音を(旧ROA以上にはっきりと)左右chに振り分けているので、両手の弾き分けの違いが際立ってとても面白いです。

 ちなみに、途中「蛍の光」を弾く The Genetic Method は当然大晦日31日の音源ですが、そこから切れ目なしになだれ込んで始まる Chest Fever は28日の音源なんですね。disc4では31日の音源がきけますが、演奏終了後にメンバーの Thank You, Happy New Year! という声が聞け新年ムード満点なんですが。演奏にキズがあるわけでもないのに、なぜ、わざわざ28日の音源を繋いだのでしょう。

 もう一つのメドレーぽい箇所は、The Night They Old Dixie Down / Across The Great Divide ですが、これも実は前者が29日、後者が30日の演奏でした。うーん、繋がりが自然にスムーズなのでとても別日の演奏とは思えません(それは旧ROAで聴いてもそうです)。

●ボブ・クリアマウンテンが仕事をしてきたミュージシャン達は自分の好みとずれているのですが、驚いたのが少し前に始まった一連のストーンズのライブ・アーカイブ配信。特に73年ブリュッセル公演の音源。いったいどうすれば、こんな鮮やかなサウンドに生まれ変わるのか仰天したものですが、今回のザ・バンド音源での仕事ぶりも同様の印象を持ちました。ザ・バンドの音楽にしては派手にし過ぎてしまうのではないの、という先入観は私的には完全に外れ。脱帽です。

 不満を言えば、曲間が短めに端折られていて、どんどん次の曲に進んでいくので各曲の印象に浸っている余裕がないこと。ディランが登場する Down In THe Flood ですら、前の曲から間を置かずあっさりすぐ始まります。Like A Rolling Stone の前にボブが「この曲やるの何年ぶりだっけ。6年ぶり?16年ぶり?」と語る面白いmcはちゃんと残ってます。ボブは途中、歌詞忘れかけてヨレヨレになりますけど。あんたがその曲で歌詞忘れてどうする(笑)。

●続いて、31日のNew Year's Eveショーの音源を無編集で演奏中に収録したdisc3と4。

 16テイクと大量の音源が初出で、ミックス担当はロビーの息子のセバスチャン・ロバートソンとジェアド・レヴァインという人(後者はロビーがドリームワークスの仕事をした時に一緒に仕事をした人の模様)。BCミックスとは微妙に違いますが、こちらもとても聴きやすいです。あまりいじくってない感じの音。ホーンは引っ込み気味。

 驚いたのが曲順。上に書いたように旧ROAでは、ロビー・ロバートソンのホーン隊紹介に続いて、Don't Do It のイントロが始まるので、ホーン隊はコンサートの最初からいるものと、大昔、最初にROAを聞いた時から今まで思いこんでました。

 ところが、この31日の演奏では、ホーンが登場するのはdisc4の1曲め Life Is A Carnival から。disc3にホーンが参加してるものは1曲もありません。ようするにホーンの4人はコンサートの途中から出演してたわけです。Stage Fright 演奏後の、ダンコの「ここでちょっと休憩とってまた戻ります」というmcからもショーが2部構成だったことが分かります。31日だけではなく4日間すべてそうだったのではないでしょうか。

 旧ROAでの冒頭のロビーのイントロダクションは We're gonna try something we've never done before. ですが、今回の31日音源で Life Is A Carnival の前で話してるのは We're gonna do something different this second half. とホーンが途中から入ることを裏付けてます。this second half という言葉のある31日のmcを使うとホーンが最初からいるように「偽装」できなくなるので、旧ROAでは、this second half という言葉を話していない別日のmcを使ったということなのでしょう。

 力尽きて来たのでもうあまり書けませんが、曲間も含め無編集ということなのでコンサートの進行具合も分かって面白いです。個人的には Unfaithful Servant のロビーのソロを別テイクで聴いてみたかったのですが、旧ROAのテイクも31日のテイクだったので、残念ながら同じものしか聴けません。

●DVDに収録された映像は King Harvest と The W.S. Walcott. Medecine Show 2曲だけですが、動く演奏シーンを見るのはやはり格別。The W.S. Walcott. Medecine Show のイントロ部でロビーがギターのネックを派手に上下させながらリフを弾くシーンとか、「オー!」って感じ。こればかりは音だけでは分かりません。

 これで、映像で見れるものは、2005年に出たアンソロジー・ボックスに収録の Don't Do It と合わせて3曲になりましたが、まだ未公開の映像もあるようで、こちらでそれをまとめてくれてる方がいます。

 Rag Mama Rag のチューバ・ソロでハワード・ジョンソンがステージ前方に出て立って演奏してるシーンとか、こういうのも当たり前ですが音だけでは分かりません。不完全な断片しかなくても十分なので、今回のDVDに入れて欲しかったです。

●ブックレットのロビーの回想は具体的でとても面白いもの。NYの空港に到着したアラン・トゥーサンが持参したホーン用の譜面の入ったカバンを誰かが間違って持って行ってしまった話とか(つまり書き直し)、着いたウッドストックは大雪で、アランの耳の具合が悪くなったりで順調には作業は進まなかったとのこと。コンサート2日前から行ったリハーサルの多くはホーンとの調整に費やされたそうで、ジョン・サイモンも手助け。コンサートの現場にはボビー・チャールズやDr.ジョンもいたそうです。

 他に3者のエッセイが載ってますが、マムフォード・アンド・サンズの部分はわりと儀礼的な内容であまり面白みはありません。その点、アラン・トゥーサンのエッセイは流石。トゥーサンは、リック・ダンコのベースをどの流派にも分類できない独自のスタイルを持ってると述べてます。ブックレットの写真を見ると、31日のショーで、ディランの弾くテレキャスターはロビーのを借りてるようで、その代わりロビーはSGを弾いてます。

●予想以上の出来。これは素晴らしい新プロダクションでした。ボックスは手に余るという人はBCミックスのみの2CDも出ます。レコード・コレクター誌の次号はこのボックスの特集ですが、楽しみに待ちます。


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コメント

はじめまして。

大変参考になりました。

しかも腹をかかえて笑いました。

ありがとうございました。

アカデミー、買ってみます。

ありがとう、さん

遅くなりましたが、
楽しんでいただきありがとうございます。

買って良かった、になったことを祈ります。

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