ディランの1969年ワイト島フェスティバル音源完全版
●ブートレッグ・シリーズvol.10のデラックス・エディションのみに付いてるディスクです。予想以上に素晴らしかったです。音質はリミックスでかなり変わってます(後述)。全17曲、ほぼ60分。
当時のディランはもちろんツアーとは無縁な生活を送っていたわけですが、クリントン・へイリンのday by day 本、A Life In Stolen Moments によれば、ディランは本番6日前の8月25日深夜にワイト島に到着。翌26日からリハーサルを開始し、コンサート前日の8月30日には4時間に及ぶ通しリハーサルをしたそうです。また同日には、Hector's Crab and Lobster Bar というダイニング・パブでザ・バンドとジャム・セッションを行ったとされています。
●8月31日のショー当日にディランが登場したのは夜11時頃。一部非公式な映像も残ってます。
自分の見たことのある映像は、上の I Threw It All Away の他に、Highway 61 Revisited、One Too Many Morning、I Pity The Poor Immigrant、Minstrel Boy ですが(これら以外にもあるのかは知りません)、ディランはショーを通してずっと(2種の)アコースティック・ギターを弾いていて、Highway 61 のような曲でもエレキギターは弾いてません。これは意外でした。最初の方で弾いてるギターは、ナッシュヴィル・スカイラインの表カバーでディランが持ってるギターに似てますが、ちゃんと確認はしてません。
●ディランが観客の前で演奏したのは、フル・ショーなら66年5月27日、ロンドン、ロイヤル・アルバート・ホール以来。フル・ショー以外では、ワイト島フェスの一カ月半前の69年7月14日に、南イリノイ大学での The Mississippi River Festival に出演したザ・バンドのアンコールにサプライズ・ゲストとして登場して数曲歌って以来。ディラン名義の出演に限れば、68年1月20日カーネギーホールでのウディー・ガスリー・トリビュート・コンサートへの出演時以来でした。
●直前に集中的にリハーサルしたとはいえやはり、歌、演奏ともに所々荒く不安定なのは仕方ないです。
1曲目の後に、Great to be here と数回繰り返しつぶやくディランですが、「ユダ!」と野次られまでした3年前のことは、もうどうでもよい過去のことと言うわけではなかったと思うのですが。Mighty Quinn の前で「こちらでマンフレッド・マンが大ヒットさせた曲です」と語ったり、リラックスして淡々と曲を消化していく印象。Mighty Quinn のロビーのギターソロの前に、Oh Guitar! と叫んだり、66年のUKツアーで見られた不機嫌さはみじんもありません。何よりブーイングする客なんていないし。客なんて勝手なもんです、ええ。
●個人的に一番気に入ったのが、4〜7曲目のディランのソロ・セット。すでに「セルフ・ポートレート」の録音は始まっていたわけですが、ソロ・セットは「セルフ・ポートレイト唱法」が濃厚で、伸びやかな歌が味わえます。歌っているのは、トラッドの Wild Mountain Thyme(RTR期のライブでよく歌ってます)と、定番の代表曲 It Ain't Me, Babe、To Ramona、Mr.Tambourine Man ですが、どうせならこのセットからの曲を「セルフ・ポートレイト」にいれた方が違和感なかったと思うんですけど。ディランさんは、どういう基準で選んだんでしょうかねえ。謎。
●「ナッシュヴィル・スカイライン」、「ジョン・ウェズリー・ハーディング」収録曲や、Lay Lady Lay がザ・バンドのバックで聴けるのも面白く、特にJWHからの2曲(I Dreamed I Saw St.Augustine と I Pity the Poor Immigrant)はどちらもゆったりとしたワルツで、2曲ともガースのアコーディオンが聴けるのもうれしいです。
●ヘビー・アレンジの演奏は、Maggie's Farm、Highway 61 Revisited、Like a Rolling Stone といった曲ですが、Highway 61 がカッコ良く、コーラスの最後で派手に歌ってるリヴォンのバックコーラスが重なる所なんか最高です。
●こうして公式盤の高音質でフルセットを聴いてみれば、セルフ・ポートレイト収録のたった4曲しか聴けなかった時に受けた、このショーの半端な印象が吹っ飛ぶほどの驚き。万全ではない録音状態や演奏の荒さはもちろんあるのですが、コンサートは、曲ごとに断片で聞いたって分からない、あくまで全体の印象でナンボなんだということを痛感します。それは、例えば、よれよれクラプトンのレインボウ・コンサートだってそう(あれは全体聴いてもよれよれですが。わはは)。
●音質は、リミックスによって楽器が左右に広がって前に出て、歓声も大きく入ってます。なにより楽器音がすごく生々しい。ただし、左にいるガースのオルガンが右から聞こえたり、その辺は適当です。まあ、クラシックと違いステージにいる位置から音が聞こえなきゃならないということもないので。
演奏が所々荒れたように聞こえるのは、楽器間のバランスがあまり良くないこともあると思われます。この点、この音源のリストアを担当したスティーブ・バーコヴィッツがUNCUT誌9月号で、当時は連絡取るための携帯電話があるわけでなし、いつステージが始まるか、いつソロが始まるか、マイクセッティングはどうなってるか等、何も分からないまま、ステージから遠く離れた移動録音機材の中で格闘してたエンジニア(録音担当はグリン・ジョンズとエリオット・メイザーという名人です)の苦労も考えるべき、と語ってます。はい、その通り。
まあ、変なブートの音に慣れてる人なら、全然問題ない完璧なサウンドボード録音なわけですから文句言ったらバチ当たります。そもそも、ブートレッグ・シリーズなんですから。
ワイト島のディスクのレーベル面は、かのTMOQの豚ロゴが印刷されていて笑いました。レコード会社の中の人も遊んでますね。
2枚組の通常盤に収録のワイト島音源2曲は、このリミックス音源が使われています。
●あまりにも素晴らしいので、これだけブートレッグ・シリーズvol.10から独立させて、もし、ザ・バンド単独のセットの部分の録音があるならそれも合わせてリリースして欲しいと思うのですが。
よろしく、頼みます。
69年8月31日、ワイト島フェスティバル
ボブ・ディラン&ザ・バンド
1. She Belongs to Me
2. I Threw It All Away
3. Maggie's Farm
-Dylan solo-
4. Wild Mountain Thyme
5. It Ain't Me, Babe
6. To Ramona
7. Mr. Tambourine Man
8. I Dreamed I Saw St. Augustine
9. Lay Lady Lay
10. Highway 61 Revisited
11. One Too Many Mornings
12. I Pity the Poor Immigrant
13. Like a Rolling Stone
14. I'll Be Your Baby Tonight
15. Quinn the Eskimo (The Mighty Quinn)
16. Minstrel Boy
17. Rainy Day Women #12 & 35
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コメント
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時々このサイトをみさせて頂いております。
Kozoと申します。私は結局 ITuneで落としました。1曲$1.29イントロの司会者のバンド紹介40秒でも1.29$は少々もったいない気がしますが。それを含めて全18曲$23.22。
音だけなら現在この方法しかありません。ちなみにあと$4.77出せばのアルバム全曲が買えるみたいです。
投稿: Kozo | 2013.09.16 13:13
Kozoさん、
ワイト島音源の購入情報ありがとうございます。
配信だとワイト島だけ買えるというのは気づきませんでした。
日本ストアでも確認してみました。
200円×18トラックで計3600円で購入可能でした。
米ストアよりさらに高く微妙なお値段ですね。
vol.10本編を安い輸入盤で。
ワイト島音源は米アカウントを持っているなら米ストアで配信。
これで5000円位に収まりますね。デラックス版の市価の半額くらい。
こういうのはもっとシンプルな形態で、リーズナブルな値段で出してほしいものですね。
ブログはあまり更新していませんが、
時々見ていただければ、うれしいです。
投稿: Sato | 2013.09.17 05:32
同時期のLP「ディラン」については完全無視ですね。
おそらく、「アナザー・ディラン」 without overdubにunreleasedを加えて、「ディラン」の最新リマスターとの2枚組に、豪華写真集をつけて、一万円でどうだ!
五十代、六十代の主要購買層が年取って購買力がなくならないうちにさっさとださなくちゃ。
アナザー・セルフポートレート
デラックス盤は輸入盤入手不能で、国内盤を買いました。
LPプラスCD盤は輸入盤で入手。
聴き比べると、LPが1番いい音です。
投稿: mmm | 2013.10.07 14:29