ガース・ハドソンのビルボード東京公演を観る
●8月2日に行われた、ガース・ハドソンのビルボード東京公演を見て来ました。私の見たのは19時からのファースト・ステージ。ガースのバンドは、今年のフジロックに出た後、ビルボード大阪で演奏してから、ビルボード東京というスケジュールでした。
お客さんは良く入っていて、特にセカンド・ステージは全席完売表示。ガースはちょうどこの日76歳の誕生日でしたが、公式サイトには、Garth's last performance of his 75th year!と書いてあります。
●ザ・バンドの頃から長年連れ添っている嫁さんのモード・ハドソンをヴォーカルにした6人編成。嫁さん以外は、打楽器は2人(Ernesto "Ernie" Colon, Steve Sacco)、ギター&ベース1人(Paul Rigby)、キーボード&サックス&ベース持ち替え1人(Marty Grebb)。打楽器だけでステージの4割くらいを占拠。
嫁さんのモードは車椅子に大きな杖を持っていて、衣装も黒ずくめなので魔法使いのお婆さんみたい。ガースは左奥に位置していて、楽器は正面に2段重ねのシンセ、右にアップライト・ピアノ、左にオルガンがあって、ガースをコの字型に囲む感じ。嫁さん同様に黒ずくめの衣装に帽子、ヒゲもじゃなので表情はほとんど分かりません。
●1時間ちょっとのステージで演奏したのは8曲。うち、ザ・バンドの曲が Don't Do It、The Wheel's On Fire、It Makes No Difference、Chest Fever、The Weight の5曲。他はファンク風1曲(ロビー抜きザ・バンドの1作目「ジェリコ」に収録の Move To Japan でした)、ラテン1曲。それから、知らない曲でしたが、帰宅してから歌詞を頼りに調べてみたら Mink DeVille というバンドの Something Beautiful Dying というタイトルのとても美しい曲を1曲めに演奏してました。
●ショーとしての出来やバンドのクオリティは今ひとつという印象で、このバンドを受け止めるにはガースへの愛が必要かも、と思いましたが、主に曲の冒頭でやる、形式の自由なガースの即興的な無伴奏ソロは非常に魅力的で印象に残りました。私はそれで十分。というかガースばかり見てたので他のメンバーが何してたかあまり分かりませんのです。
お約束ではありますが Chest Fever 冒頭のソロでは、最初に正面のキーボードを弾いてからそのまま体を移動して右のオルガンに移るという演奏で、内容もバッハのトッカータとフーガからの引用を含んだ、バッハの幻想曲みたいで素晴らしかったです。あらためてこの人の音楽のバックボーンの広さ、深さを思い知らされました。演奏後に正面を向こうとして足が抜けなくなって、笑いを取ってましたけど。
The Weight の前にはピアノで My Old Kentucky Home を静かに演奏したのですが、以前彼が Song to Soul という番組に出た時に、賛美歌風のパッセージを弾きながら、この曲はアメリカ音楽の色んな伝統の中から生まれてきたんだよ、と語っていたのを思い出したのでした。
●ステージ上のガースの挙動は非常におかしく、ザ・バンド時代は寡黙な哲学者然としたガースでしたが、今のガースは仙人というか変人のよう。Wheel's on Fire ではアコーディオンを弾いたのですが、演奏前に何かうつむいて足元でもぞもぞしてると思ったら、アコーディオンを付けようとしてたのでした。結局は恥ずかしそうに後ろを向いて、途中上着を1つ脱いでアコーディオンを付けたのですが、いったいアコーディオン付けるのに何分かかるんだという感じ。
別の場面では、立ったまま片手をキーボードの上に置いて身を支えるようにずーっとフリーズしていて(笑)、お歳がお歳ですから具合悪くなって一瞬そのままぶっ倒れるのかと思ったのでした。最初ステージに登場する時も、先に他のメンバーが演奏を始めてからこそこそ気付かれないようにステージに上がるという感じ。とにかく、動作がスローモーションのようで彼の中ではまったく一般人とは別の時間が流れているんでしょう。車の運転をするそうなので、ちゃんと別の市民モードもあるんでしょうけど(笑)。
彼は、キーボードに覆いかぶさるように身をかがめて演奏するので、平土間の席からは彼のこうした変な挙動はあまり良く見えなかったかもしれません。
●ちょうど、この日はガースの76歳の誕生日。最後に嫁さんから「今日はガースの誕生日です」と言葉があり、バンドの演奏と一緒に、場内の皆で、Happy Birthday To You の合唱をした場面はちょっとウルッと来ました。
プロの演奏家から尊敬される人なので、2公演ともプロの方々が見に来ていたということですが、特にセカンド・ステージはハッピー・バースデイの場面で、同じくフジロックからビルボードというスケジュールで前日東京でショーをし、この日は客席にいたダニエル・ラノワがバースデイ・ケーキを持って登場。一緒に録音、共演したことのある佐野元春をステージに呼びあげて、ラノワのギター、佐野元春のコーラスで I Shall Be Released を演奏したそうです。私はファースト・ショーだったのでそのシーンに立ち会えなくて残念。こればかりは運なので。
●そんなに多くを期待せず、最愛のザ・バンドの奏者の生姿を30年ぶりに拝んでおこう位の気持ちで見に行ったのですが、幸福感に包まれて帰ったのでした。ガースの生演奏がまた見れるのかどうか分かりませんが、彼らが、日本ツアーは楽しかったね、という気持ちに包まれて帰国してくれたのならそれで良いかな。うん。
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