Wolfgang Vault で見れる「ラスト・ワルツ」の別映像(続き)
●前回の続きで Wolfgang Vault の「ラスト・ワルツ」映像の話で、ボブ・ディランの出演シーンについて。
ボブ・ディランのシーンは、映画「ラスト・ワルツ」では、フェード・インするように入ってくる Forever Young 以降の映像しか見ることができません。初めて映画を見たときは、単にこのシーンだけを使ったのかなと思ってましたが実は映画用のフィルムもForever Young 以降のシーンしか撮影されていないことを、前回触れたリヴォンの本(「ザ・バンド 軌跡」)を読んで知りました。
本の中に、ディラン側の撮影許可が取れないままディランのステージが始まってしまい、ようやく最後の2曲を強硬撮影した様子が書かれてます。
最後の二曲になった。技術係があわててヘッドセットをつけ、カメラがむきを変え、照明がつき、ステージはふたたび映画のセットと化した。<フォーエヴァー・ヤング>のあと、ボブがまた<ベビー・レット・ミー・フォロー・ユー・ダウン>をやりだした。ぼくたちはおどろいたが、きっとボブは映画の中に昔のロックンロールが一曲もないことに気づいたのだと考え、あとに続いた。やがてボブもくわわって大フィナーレがはじまり、ステージの横でビル・グレアムが大きな声でボブの側近たちを止めようとしていた。演奏がつづくなかで、このごたごたがあり、ビルが「ばか!カメラをまわせ!これをとらなきゃだめだ!」とさけぶのが聞こえた。ボブは怒ってなかったし、ぼくたちも笑ってそのままよい演奏を続けた。(253頁)
ということです。グレアムのやったことは完全に正しかったと思われます。というか、あのフィナーレが撮影されなかったかもしれないことを考えるとゾッとします。
●Wolfgang Vault の映像はボブのセットもすべて見ることができるのはありがたいです。最初のBaby Let Me Follow You Downから演奏部分は修正されまくってますが、ボブのヴォーカルはそのままだと思います。さすがにディランにスタジオでもう一度やれとは言えなかった思いますが、そもそも修正の必要をまったく感じない出来。
●Forever Young 中間のロビーの素晴らしいソロはそのまま使われてます。その後で、ボブが最前列の客の方を向いて微笑むシーン(下の画像。DVDより)は、自分が最も好きなシーンなのですが、Wolfgang Vault の映像(4:14あたり)だとちょっと分かりにくいですね。ボブはヴォーカルに戻った後もそちらの方を指さすシーンもあるのですが、あれはどういうやりとりなのでしょう。
●無修正音源を聴くと、修正というより別音源というくらいの差し替えがある箇所もあり、もはやドキュメンタリーとしての同一性すら疑わしいくらい。
前回書いたジョン・サイモンの言葉によると、ホーンセクションは取り直したということですが、例えば、The Shape I'm In はそもそも「ラスト・ワルツ」のステージではホーンなしの演奏なので、公式版は完全なオーヴァーダブです。映画の同曲のシーンでは、ステージ上にホーンが映ってないのにホーンが鳴るという不思議な場面が展開されますが、無修正音源を初めて聴くまで自分はそのことに気づきませんでした。
●ちなみに、ザ・バンドは「ラスト・ワルツ」の年の76年にもツアーをやっていますが、FMで中継された9月18日のNY、Palladiumでの演奏を聴くとThe Shape I'm In はホーン付で演奏されてます。ツアー時にホーン付で演奏しているのに、ラスト・ワルツ(11月25日)ではなぜホーンを外し、あとで丸々オーヴァーダブするという面倒なことをしたのか不思議です。
(キング・ビスキット・フラワー・アワー音源の聴ける8月16日のDC公演はホーンなし。上のNY公演は Palladium のこけら落とし公演)
●「映画」を見ても、リヴォンの本を読んでも、ろくに準備もせず行き当たりばったりでカメラ回している凡百のライブ映画と異なり、スコセッシは周到な準備をして「ラスト・ワルツ」に臨んでるのが分かると思いますが、音楽好きの知人を話していると、スコセッシの音楽映画が好きでないという人も結構います。
劇映画のように緻密に構成し過ぎて、ライブ演奏の「生」の雰囲気が吹っ飛んだ「作り物感」がするあたりが嫌われる理由なのかな、と思うのですが。ストーンズの映画だと 作り物的な Shine a Light(スコセッシ) より Let's Spend The Night Together(ハル・アシュビー) の方が好まれるみたいな。
●スコセッシは、ジョージ・ハリスンのドキュメンタリー映画「Living In The Material World」を制作していて、初公開はテレビで、10月5日に米HBOで放送予定(リンク先で予告編が見れます。映画館公開は11月23日)。ボブの No Direction Home はとても良かったので、むしろドキュメンタリー映画の方が抵抗なく受け入れられるのかなと思います。
NHKも共同制作として関わっているので、No Direction Home の時同様、日本でも放送されるはず。今まで必ずしも深く掘り下げられて来たとは言えないクラプトンとの交友関係も触れられるはずだし、大変楽しみです。
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