ロブ・ボウマン著/「スタックス・レコード物語」
●ロブ・ボウマン著の「スタックス・レコード物語」の邦訳が6月末に出たので買ってみました。
(シンコー・ミュージック・エンタテイメント刊、原題:SOULVILLE U.S.A. THE STORY OF STAX RECORDS)
読む時間があるか微妙ですが、売れる部数が限られたまともな音楽書ほどすぐ絶版になってしまうので、とりあえず手元に置いておこうかなと。
●グロウニックの「スウィート・ソウル・ミュージック」が、若干学究的て晦渋な箇所があるのに対し、本書は現場にいた当事者の証言が非常に多く、具体的なエピソード満載でさくさく読める感じです。スタックスにどっぷり浸かってる人にはたまらんと思います。
4月に出たバラカンさんの「魂(ソウル)のゆくえ」新版の「お勧めのソウル本」欄は、邦訳のあるものに限定しているので、そこでは紹介はされていませんが、本書の出版時期がもう少し早ければ当然紹介されていたものと思われます。
●まだ摘み読み、斜め読みですが、興味を引いたのは、ビートルズが「リヴォルバー」をスタックスで録音する可能性があったという箇所です。まっとうなソウル・ファンには邪道な興味でしょけど。
「1966年3月ブライアン・エプスタインがビートルズの次作のレコーディングをスタックスで行う可能性を探るためにメンフィスを訪れると、社内の興奮のレベルは最高潮に達した。
(略)
だが悲しいかな、ビートルズがレコーディングでスタックを訪れることはなかった。スティーブ・クロッパーによれば、エプスタインはメンフィスのセキュリティ態勢の不整備を理由に、ビートルズをニューヨークのアトランティックに送ることを決めたと耳にしたという。クロッパーはそれでも、いつかはレコーディングに参加できるのではないかと希望を持っていた。『エプスタインが戻ってからおれに電話をくれたんだ。『次のプロジェクトまで待たなくちゃならないかもしれないな。今のアルバムのレコーディングは、もうほとんど終わっているからな』」
ということです。ちなみに、ビートルズは、「ニューヨークのアトランティック」にレコーディングに行くこともありませんでしたが。
●また、オーティス・レディングによるストーンズのサティスファクションのカヴァーについて。
「アルバム収録曲の候補を探していたスティーブ・クロッパーは、ふと面白いことを思い付いた。「あれはおれのアイディアだったんだ。レコード店まで戻って(ストーンズの)レコードを手に取り、バンドのみんなに聴かせ、歌詞を書き取った。オーティスは<サティスファクション>を<~ファクション>じゃなくて<~ファッション>って歌ってるだろ。あれが最高だね。あそこにオーティスらしさがよく現れている。あいつはいつも、余計なことは何も考えずに、とにかく一気に歌うことが多かった。がんがん突っ走るみたいにね。あの曲のことは知りもしなかったよ。たぶん聴いたこともなかったと思うな。」フィル・ウォルデンもこれに同意する。「オーティスは歌詞に1、2回目を通しただけで、本当にいきなり始めたんだ。何の準備もなし。ぶっつけ本番で録ったんだ。ローリング・ストーンズのオリジナルは、一度も聴いたことがなかったね」(94頁)
「オーティス、サティスファクション原曲知らずに録音」説は、ちょくちょく目にしますが、こういうふうに語られると生々しさが違います。
●ボウマンがスタックスについて調べ始めたのが1985年、出版が1997年と、出版まで12年を要した力作。雑誌の掲載記事をまとめた、「○○名盤100選」なんて本とは次元が違います。
邦訳は二段組み、469頁。「スウィート・ソウル・ミュージック」も訳された新井崇嗣氏の翻訳文がこなれていて、非常に読みやすいです。
INDEXがないのが残念ですが(DTPのご時世ならINDEX項目を抽出すること自体は容易なはず)、各頁に固有名詞が大量に登場するので、難しかったのかもしれません。
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